第14章:ネガティブな感情との向き合い方

心理学の役割

ネガティブな感情と向き合うときにも心理学は生かされます。

心理学には主に以下の3つの役割があります。

  • 記述:現象をまとめて、調査研究の結果(事実)を整理すること
  • 説明:記述での事実にはどのような意味があるのかを解釈すること
  • 変容:どうすればある行動が変わるかということ

具体的には、

  1. 記述によってどのような現象があるのかを詳細に表現・分類します。
  2. 次にその行動にはどういった意味があって行われているのかという説明が可能になります。
  3. そして、行動を変えるために必要なことは何かという対処法として、変容を表現します。

これらの過程によって心理学は人間をはじめ、その他の生物の行動を分析したり理解したりすることができるのです。

心理学とは、行動を科学的に証明する学問です。

問題の解決や、関連性の高い行動事象が多く集まることで、実例・研究結果という形で考察して知りえた内容として蓄積されていきます。

そのため一般心理学の知識だけでは、具体的な事象の現象について正確に「記述・説明・変容」の対処ができないことがあるのです。

人間が起こしている行動は、個人の心理状況がそのまま反映しているとは限りません。例えば、集団の中では個人として振る舞う時の考えとは別のことが行われたりします。

1人の時は大人しい学生でも、集団の中にいると気が大きくなり悪さもしてしまうなどのケースもあります。

難しい問題に直面した時には、哲学が役立ちます。

学問上の哲学というより、自分自身が人間とはどうあるべきものなのかを考えたり、人生についてどう思うのかなどのさまざまな事象に対する自分の信念と言うべきものといえます。

このような哲学の知識は他人から学ぶものではありません。

日常生活の中で感じる感覚や感想を「自分はこのように考えている。こんなことが大切だと思う」というように自分の言葉で表現していくことによって、哲学をさらに磨いていくことができます。

この心理学や哲学の考え方をすることで、ネガティブな感情の原因を知ることができ、原因の解消に近づくことができたり、原因を解決することができるのです。

心的装置「エス(Es)」を解放する

オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトが20世紀はじめに創設した、心を分析することで精神疾患を治療する方法に「精神分析的理論」があります。

精神分析的理論には、心が「エス(Es)」「自我(Ego)」「超自我(Super-Ego)」の3層からなるという「心的装置」と呼ばれる理論が含まれます。

ネガティブな感情と向き合う時はこのうちの「エス(Es)」が大きく関わってきます。

なぜなら「エス(Es)」は幼児期から抑圧されてきたものが蓄積されている領域であり、無意識的で、欲望や原始的な衝動のもととなるものだからです。

また快を求め、不快を避ける「快感原則」が支配する、という特徴があります。

つまりネガティブな感情をもったとき、いち早くそのネガティブな感情を手放すために、ふだんは自我にコントロールされている「エス(Es)」を一時的に解放し、本能のままに行動する必要があります。

メンタルトレーニングをしたからといって、自分の中にあるネガティブなエネルギーを無視してはいけません。

人間ですから、さまざまなことに対するネガティブな感情を抱いていいのです。

ただし社会的な立場や人間関係を無視して本能のままに行動すると、今後の社会活動が困難になってしまいます。

取り返しのつかない事態を避けるために、ネガティブなエネルギーを抱えてしまったとき、他者とのコミュニケーションを減らす必要があります。

なぜなら「平常心」ではないとき(「エス(Es)」を一時的に解放した状態)のコミュニケーションは、思ってもいない言葉となって他者を傷つけることがあるからです。

ストレスが溜まっているな」と感じたら、メンタルに少なくない負荷をかける他者とのコミュニケーションをできるだけ減らしましょう。

コミュニケーションを少しでも減らせたら、プライベートな空間で、ネガティブなエネルギーについて集中して考えます。

少々メンタルに負荷はかかりますが、ネガティブな事象に集中し「より早く落ち込む」のが狙いです。

落ち込んでいる時間が短ければ短いほど、メンタルへの全体的な負荷は軽くできるでしょう。

より早くネガティブなエネルギーを昇華させます。

メンタルトレーニングをしたがゆえに

  • 「ネガティブな感情を抱いてはいけない」
  • 「トレーニングが足りていないのでは」

と悩む必要はありません。

ネガティブなエネルギーは、自分でどんなに避けていてもどこからか影響を受けるものです。無視していると昇華されず、溜まっていく一方になるため、よりメンタルにとってリスクが高いのです。

メンタルトレーニングをしてもネガティブな感情を抱くことは当たり前です。

トレーニングの目的は「メンタルをコントロールする方法を学ぶ」ことにあります。ネガティブな感情に集中するまとまった時間をとると、そのうち脳の集中力が切れて疲れてきます。

もうネガティブなことについて考えたくない」となります。その瞬間が「落ちこむ底」に到達した瞬間です。

底に到達したら、あとは「上がる」のみです。ネガティブな感情を昇華し「上がる」方法を、ここから学んでいきます。

「悲しみ」は涙で捨てる

ネガティブな感情が「悲しみ」からくるものであったとき、昇華する方法のひとつに「涙を流す」方法があります。

泣けば良いというわけではありません。メンタルに良い影響を与える外的刺激を与え「温かい感情」から出てくる涙を流しましょう。

具体的には「感動して泣ける本を読んだり、映画を観たりする」ことです。

間違っても

  • 怖くて泣く
  • 怒りや悲しみで泣く

このような本や映画を選んではいけません。

せっかく底まで落ちてきて復活しかけたメンタルが、ネガティブなエネルギーを再び抱え込むことになってしまいます。涙とともに脳内の感情は洗い流されていくと言われています。

「感動して泣ける本や映画」を選び鑑賞することで、感情が洗い流されてからっぽになった脳内を、優く温かい感情で満たすことができるのです。

メンタルトレーニングを終えるまえに「悲しみの感情を捨てる」ためのアイテムをいくつか揃えておくことをおすすめします。

「自分はどんな本(映画)で泣けるのか」を分析することで、自分の悲しみの感情の処理の仕方がより詳しく分かるでしょう。

「悲しみ」が自分に対しての感情なら、努力して難局を克服したり、自分で自分の人生を乗り越えていくサクセスストーリーがおすすめです。

「悲しみ」が他者の悲しみに共感したものなら、人間に感情移入しなくてよい動物をテーマにしたハッピーエンドのストーリーがいいでしょう。

「怒り」は動いて捨てる

ネガティブな感情が「怒り」から来ている場合は、涙を流すとネガティブなエネルギーを増幅させることがあります。

「怒り」の感情は、あなた自身が身体を動かして昇華しなくてはいけません。

スポーツジムに行って思いっきり汗を流す、ひと駅歩くなど「やや負荷高め」の運動がおすすめです。

なぜなら身体に大きな運動負荷をかけることによって、運動することそのものに集中することができ、ネガティブな「怒り」の感情を追い出すことができるからです。

負荷高めとともに、実践してほしいのは「目標を立てて、それをクリアすること」です。

ジムに通っているならたとえば、ベンチプレスで持ち上げる負荷の目標をこれまで経験したことない重さに設定してみるといいでしょう。

ウォーキングするなら、いつもより早足、大股で歩いてみましょう。「目標」は怒りを抱いたターゲットであり、それを打破する疑似体験をするのです。

身体を動かして目標をクリアできたとき、あなたの中の怒りの感情は昇華されるでしょう。もちろん「怒り」のケアのために、高額なスポーツジムに入会する必要はありません。

あなたができることをできる範囲でやっていきましょう。

ネガティブな言葉は「呪い」

ネガティブな言葉は、誰にとっても一種の「呪い」といえます。

なぜなら、自分に向けられたものでなくても、ネガティブな言葉を聞いたり見たりするだけでメンタルはダメージを受けるからです。

特に女性は男性よりも共感能力が優れているため、ネガティブな言葉の影響を受けやすいといえます。

自分は他者の感情に共感しやすい」と感じているならなおさら、自分ではネガティブな言葉を使わないように心がけましょう。

イギリスの第71第首相で「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャーの有名な言葉があります。

考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる

ネガティブな考えをもつと、ふとした瞬間に言葉に出てしまいます。その言葉はあなただけではなく、他者を傷つけるかもしれません。

ネガティブな言葉を使っているということは、メンタルもネガティブな状態に傾いていることを意味するため、あなたの行動もネガティブなものになるでしょう。

ずっとネガティブなメンタルのままでいると、ネガティブな言動はあなたの習慣となり、人格を作り、運命、つまり人生となっていくのです。

ジェンダーフリーや多様性が叫ばれる令和の時代において「鉄の女」という呼び方は適切ではありませんが、男性優位であった時代において一国の首相にまで上り詰めたサッチャーのこの言葉は、メンタルトレーニングをする上での「金言」といえるでしょう。

ネガティブな言葉は、あなたの人生をもネガティブに導く「呪い」です。できる限り意識してネガティブな言葉を、あなたのメンタルから排除しましょう。

確認問題

では、第14章で学んだことを確認してみましょう。