ストローク
今回は、メンタルトレーニングをさらにステップアップさせます。
積極的に他者とコミュニケーションをとり、ポジティブなエネルギーを伝染させていく行動「巻き込み力」を鍛えるのです。
どれだけ綿密にメンタルトレーニングをしても、その成果を他者とのコミュニケーションを通じて確かめ、実感できなければ意味がありません。
何のためにメンタルトレーニングをしているのか、もう一度考えてみましょう。
人と人とが関わるとき、人間が生きるために必要な心の栄養「ストローク」が交換されています。
ストロークには、
- 受け取ると心地のよいプラスのストローク
- 嫌な気分になるマイナスのストローク
がありますが、どちらのストロークにしてもストロークが足りないと、人間は心身の健康を保つことができないのです。
ストロークが不足したとき人は、ゲームなどのマイナスのやり取りをすることで人と関わり、ストロークを得ようとするのです。
マイナスのストロークが不可欠、と聞くとこれまでポジティブなエネルギーをメンタルに補給することを勉強してきたために、少し違和感を感じるかもしれません。
しかし心が安定しているときに、人間は少しのネガティブなエネルギーを必要とすることがあります。
たとえば「イヤミス」と呼ばれるアンハッピーエンディングであったり、後味の悪い本を積極的に読む、といったことです。
ストロークの交換はもちろん、プラスのみやマイナスのみ、といった偏った状態ではいけません。
「陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず」
ということわざがあるように、行き過ぎると逆に転じる可能性があるためです。
他者を「巻き込む」際には、このプラスとマイナスのストロークの交換バランスに注意しつつ、親密で協働できる温かい人間関係を築いていきましょう。
孤独が意味するもの
メンタルトレーニングをする理由のひとつは、お互いにメンタルにダメージを受けることなく、他者と円滑にコミュニケーションを取りたいからではないでしょうか。
自分も傷つきたくないし、他者も傷つけたくないという想いがあるからこその、メンタルトレーニングだったはずです。
だからこそ、メンタルトレーニングの完成形のひとつは、メンタルトレーニングで学んだポジティブなエネルギーを他者にも伝えることとなります。
メンタルトレーニングは、自分を守る鎧や壁ではありません。自分も含めて誰も傷つけたくないから、と自分の殻に閉じこもってはいけないのです。
人間のメンタルは「ナマモノ」です。いつまでも同じ状態を保ってはいません。常に新しい刺激を取り入れ、トレーニングし続けることが求められます。
だからこそ刺激に負けないメンタルトレーニングをすることが必要であり、常に他者とコミュニケーションをとらなくてはいけないのです。
孤独でいるとトレーニングを活かす場が得られなくなり、トレーニングの成果を減衰させていきます。
一定のメンタルトレーニングを終えることでメンタルは鍛えられるわけですから、トレーニングを終えたら積極的に他者とコミュニケーションをとりましょう。
トレーニングを活かしてメンタルへのダメージを軽減する方法を、ケーススタディとして積み重ねていくのです。
負の感情をやり取りしない
他者とのコミュニケーションに「正解」は存在しません。なぜなら人それぞれ考え方、言葉に対する受け止め方が異なるからです。
メンタルトレーニングが終盤に差しかかったところで、他者との積極的なコミュニケーションをとる際に注意しておきたいポイントを解説します。
他者とコミュニケーションをとるとき、ほとんどの人に対して有効な方法が「負の感情をやり取りしないこと」です。
具体的なポイントは、一歩家から出たら
- ネガティブな言葉を使わない
- 他者の陰口を言わない
- 陰口に同意しない
家の中は完全にプライベートな空間であるため、誰のどんな陰口を言おうと自由かもしれません。家の中という限定された空間のみ、聞く人は家族のみであれば、家族も見逃してくれるでしょう。
しかし一歩家から出たらそこは、公共の空間です。あなたが発する言葉を誰がどこで耳にするかコントロールできません。
「そんなつもりで言ったわけではない」という言い訳が通用しない空間といえます。
特定の人の陰口ではなかったとしても、自分のストレス(ネガティブなエネルギー)が、自分の言葉に乗って誰かの耳に入ると、負の感情が伝染してしまいます。
負の感情を他者に伝染させた瞬間、あなたは「巻き込み力」を失ってしまいます。他者とのポジティブなコミュニケーションのチャンスを捨てることになります。
絶対に、公共の場でネガティブなエネルギーを他者に伝染させてはいけません。あなたのストレスやネガティブなエネルギーは、あなたがコントロールするものです。
いつどんなとき、他者に協力してもらいたいことが出てくるか、未来のことは誰にもわかりません。
いつでも、どんなときにも気軽に他者を「巻き込み」、快いコミュニケーションをとれるように常日頃から上記3つのポイントを踏まえて「他者を巻き込む下地」を作っておきましょう。
「ポジティブな巻き込み方」のコツ
他者に何らかの協力を求める、つまり「巻き込む」ときにはまずあなたが先頭に立って誰よりも行動することが求められます。
まずあなたが行動して全体像を他者に見せ「参加したい、巻き込まれたい」と感じてもらうことが必要です。
無理やりお願いして協力してもらったところで、他者のモチベーションは上がらないため、時間が経つにつれて「ちょっと無理」と言われてしまうでしょう。
他者に協力してもらうとき肝心なことは、他者が「やらされている」感覚を持たないように働きかけることにあります。他者に「自分事」と思ってもらうのです。
他者の協力を「自分事」にするためには
- まずあなたが誰よりも行動する
- 自分の知識や知恵、経験を惜しみなく共有する
- 常に周囲に感謝する
- 行動しながら計画を修正する
- 他者へ責任を分担していく
- 最終的な責任はあなたが取る(覚悟でいること)
が求められます。
特に最後の「最終的な責任はあなたが取る(覚悟でいること)」は、巻き込まれた他者を安心させるとともに、あなたへの信頼感を増す行動です。
具体的なポイントとともに「巻き込む行動」においては、いくつかの注意点もあります。
- あなたの考えを押し付けない
- 常に「全体の利益」を考える
- 巻き込んだあとは、コントロールを手放す
ことです。
「発案者だから、誰よりも先に行動したから」と、あなたの考えを周囲に押し付けていてはいずれ協力者はいなくなってしまいます。
協力してくれる人の意思や行動を、おろそかにしてはいけません。
他者を巻き込んだらあなたは、リーダーとして動くのではなく「縁の下の力持ち」として、下から後ろから支える役割に徹しましょう。
常に協力者と相談しながらコトを進めると、協力者みんなで「全体の利益」に向かって行動できます。
他者に快く協力してもらうコツと注意点さえ忘れずに行動できれば、あなたの「巻き込み力」は誰にも負けないでしょう。
行動するために必要なこと
誰かを「巻き込む」前、協力してもらえるかわからない状態で、ひとり行動を起こすことは不安かもしれません。
しかしそもそも何かを成し遂げようとおもうとき、他者(の協力)をアテにしてはいけないのです。
結果的に他者を巻き込めたとしても、行動を起こすときには何もかも自分でやる覚悟を持ちましょう。
不安を抱えながらも行動するために必要なことは「失敗は取り返せる」と強く思い込み「一歩踏み出す勇気を常に持ち続ける」ことです。
他者を巻き込んでいない状態で何らかの失敗をしたとしても、損失を受けるのは自分だけです。一時的にひどく落ち込むかもしれません。
ただ他者を巻き込んでいないために、人としての信頼を失うことも、コミュニケーションのきっかけを失うこともないでしょう。
人間はいつまでも落ち込んではいられないものです。」好きなだけ時間を使って落ち込んだら、あとは「あがる」しかないのです。
ここで前述した「一歩踏み出す勇気」が必要になります。落ち込んだ状態が心地よくなってはいけません。
行動することはメンタルにも一定のストレスをかけるものですが、ここまでメンタルトレーニングをこなしてきたあなたなら行動できるはずです。
トレーニングしてきたことで、メンタルが受けるダメージは軽くなっています。失敗を取り返せないほど、人生は短くありません。
失敗した経験を成功で一刻も早く上書きしたいのなら、行動するしかないのです。自分が望む結果を得られるまで行動することです。
その行動力が他者の目に留まり「巻き込まれたい」と思われればあなたは、協力者を得られるでしょう。
裏を返せば「巻き込まれたい」と思わせる行動力を持ち、行動することこそ「巻き込む」原動力なのです。
確認問題
では、第13章で学んだことを確認してみましょう。