行動主義
行動主義とは、行動理論に基づいて恐怖症などの心の問題や社会生活を送る大変さを、行動を変えることで改善していくことを指します。
行動理論は「学習理論」とも呼ばれており、不適応な行動・反応を取ってしまう原因は、誤った学習や条件付けの結果と考えます。
そこで適切な行動を勉強していくことで、不適応な行動を抑えることを目標にしています。
行動主義の内容は、以下の2つに分けられます。
- 条件反射理論(古典的条件づけ)
- 試行錯誤理論(オペラント条件づけ)
条件反射理論には、有名なパブロフの犬の実験があります。それは、ベルを鳴らしてから犬にエサを与えるという行為を繰り返す実験です。
実際にはエサを持ってきていないのに、ベルを鳴らすだけで犬はエサがもらえると勘違いして、唾液を分泌するようになるという実験です。
このときのベルを条件刺激、唾液の分泌を条件反射と呼びます。このような形で刺激があるだけで行動が起こるようになったとき、「条件づけが成立した」と呼びます。
条件反射理論は、このような生理的な反応を基本とした考え方です。
自分の行動を変えたいと考えるなら、この条件反射理論を利用する方法もあります。
試行錯誤理論(オペラント条件づけ)は、アメリカの心理学者エドワード・ソーンダイクが考えた猫の問題箱という実験が有名な理論です。
レバーをひくとえさが出る仕掛けになった箱の中にネズミを入れます。
ネズミは最初はただ動き回るだけだが、レバーを引くとえさを手に入れることができることを一度認識すると、だんだん学習して箱に入れられた際にレバーを引くまでの時間が短くなって的確に目的を達成するようになっていくという考えです。
また、レバーを引いてもえさが出なくなっても、学習するとそれをしばらく引き続けるという現象も発生します。
トライアンドエラーを繰り返しながら、自分にとって「正解」や「成功」と言える経験を積み重ねていくことも試行錯誤理論(オペラント条件づけ)で説明できるでしょう。
結果が確定していなくても、行動しなければ「正解」や「成功」は得られません。何度失敗しても行動主義を貫くことで「正解」や「成功」に確実に近づくのです。
目標は「結果主義」
自分が成長したいと考えて、何か仕事に必要な資格の勉強をするとします。
目標を「資格試験に合格する」と立てるでしょう。
そのとき脳内には「あなたが一生懸命勉強しているイメージ」が浮かびます。
実は「〇〇する」という、現在進行形や未来を表す言葉では「経過」を目標にしたことにしか、ならないのです。
目標とは達成した目標であるわけですから、達成したイメージをより具体的に持つ必要があります。
そのためには目標について自分に言い聞かせるとき「私は〇〇の試験に合格した」と結果を目標とすることが求められます。
「合格した」と言葉に出してみてください。
そのとき脳内には
- 「合格したあと、資格を生かして仕事をしている自分」
- 「合格した証の賞状をもって喜んでいる自分」
- 「資格を手に入れたことで自信を深めている自分」
が具体的に想像できたのではないでしょうか。
言葉の力を侮ってはいけません。
単にポジティブな言葉であればいいわけではないのです。ここまでのメンタルトレーニングで、ポジティブな言葉を使う重要性は学びました。
自分を成長させるには「ポジティブな結果をイメージする言葉遣い」を心がけましょう。
否定の言葉遣いの非生産性
ヒトの脳は否定の言葉を理解できない、といわれています。否定の言葉を聞いても、どのように行動すればいいかわからないのです。
たとえば「走ってはいけません!」という言葉を例とします。
親御さんから子どものころに注意されたことがある人もいるでしょう。
「走ってはいけない」という言葉は、注意する言葉としてはストレートでわかりやすいですが「ではどうすればいいのか・どうして欲しいのか」がまったくわかりません。
走ってはいけない、と言われたら、注意された人はとりあえず「走る」という行動を止めるでしょう。これは否定の言葉を理解したわけではなく、注意されたことによる「条件反射」でしかありません。
「走ってはいけない」という指示を理解し、受け入れたわけではないのです。
「走ってはいけない」と言われたあと、具体的にどうすればいいのかイメージすることができないために、条件反射による行動停止が時間の経過によって解けたあとは再び走り出します。
否定の言葉を使わないとき、どうすればいいのでしょうか。
それはもちろん肯定の言葉で伝えるわけですが、さらに「行動しやすい言葉」を使うことです。
「走ってはいけません」を「この場所では歩いてね」という言葉に変えるだけで相手には
- 走ってはいけない
- 自分がやればいい行動
この2つの事柄が明確に伝わります。
否定の言葉を使わないことは、自分に対する言葉にも応用できます。
「私は〇〇ができない」を「私は〇〇がこれからできるようになる」
「私は走るのが遅い」なら苦手なことについては、具体的に考えないようにしましょう。
得意なことにフォーカスしたとえば「私は二重飛びが30回飛べる」と、
- 現在できること
- 好き(得意)なこと
で自分を肯定するのです。
なぜ自分を否定してはいけないのか。
ここまでメンタルトレーニングを学んできた人には愚問かもしれませんがそれは「自分を否定することは、メリットが一切ないうえメンタルにダメージを与えるから」です。
否定する言葉を使わないことで、あなた自身にもあなたの言葉を聞く誰かにも、ポジティブな影響がもたらされるでしょう。
目標達成に必要な行動
自分が成長するための目標を立てたとき、同じタイミングで目標を達成するための計画も立ててしまいましょう。
目標を立てただけでは「絵に描いた餅」になり、夢物語に終わる可能性が高いからです。
目標を立てたら、達成(合格)することを大きなゴールとしてその手前にいくつもの「小さなゴール」を作ります。
合格まで6ヶ月が大きなゴールとすると、
- 1ヶ月後にはテキストをここまで終わらせる
- 1ヶ月後にテキストをここまで終わらせるために、平日1日当たりここまでテキストを終わらせる
- 1日当たり〇ページだから、朝〇ページ、昼休み〇ページ、帰宅後〇ページ
こういった「小さなゴール」を1日単位で作成するのです。
そして毎日の生活リズムの中に「小さなゴール」を達成するための行動を組み込みます。なぜ「小さなゴール」の達成を、毎日の生活に組み込むことが必要なのでしょうか。
それは今日一日頑張れば達成(獲得)できる見えやすい目標であるために、取り組みやすいからです。
半年先の自分を具体的にイメージすることは簡単ではありませんが、数時間後ならゴールを達成した具体的なイメージをしやすいでしょう。
先に「達成した」イメージを持つことで、脳はその行動を具現化しようと動き始めます。この「小さなゴール」の積み重ねが、結果として「大きなゴールの達成」につながるわけです。
裏を返せば「小さなゴール」すら達成できなければ、大きなゴールの達成は見込めません。「小さなゴールの達成」を日々のルーティンにしていきます。
ゴールしたことで自己肯定感が高まり、次の目標へのモチベーションが生まれ、心身によい循環が生まれるでしょう。
能動的に動く意義
目標達成のために行動するとき「〇〇するべき(しなくてはならない)」と考えてはいけません。
たとえ無理やり成長しなければならない、成長することを強要された、と感じていたとしても「〇〇したい」と考え、自分に言い聞かせましょう。
なぜなら事実はどうあれ、自分のメンタルに「〇〇するべき」と言い聞かせることは、ネガティブなエネルギーを注ぐことになるからです。
べき論は、他者からの強い指示をイメージさせる言葉のひとつです。
他者からの強い指示を受けたとき、メンタルは反射的に拒絶することがあります。目標を達成したいのなら、メンタルが拒絶する言葉を使ってはいけません。
事実が「成長を強要された」にしても「成長したい」にしても、どのように考えても事実は変わりません。それならば、自分に言い聞かせるときには「〇〇したい」と変換して言い聞かせるのです。
他者を主語とするのではなく、自分自身を主語とし、ポジティブで行動しやすい言葉に変換することで、目標を達成しようとする行動を起こしやすくなるでしょう。
「したい」という言葉のエネルギーは、モチベーションの持続にもひと役買います。
目標を達成しようとするとき、誰かの指示があって行動するのと自分がやりたいと考えて行動するのでは、結果の受け止め方も大きく違いが出るのです。
もし結果が望んだものでなかったとき、他者の指示があってやったことなら「やりたいことではなかったし、不合格でも仕方がない」と逃げの言い訳が出てきます。
一方で自分がやりたいと考えて行動したときにもし臨んだ結果が得られなかったとしても「不足していたところはどこだろうか。次に生かせる反省点はあるか」と前向きにとらえることができます。
主語を自分にし、常に前向きで行動しやすい言葉を使うことで、すべての行動がポジティブなものに変わっていくのです。
確認問題
では、第12章で学んだことを確認してみましょう。