第11章:ケーススタディ『自分の言葉』

ネガポジ転換するベネフィット

あなたが発する言葉は、あなたが考えている以上にあなたの言動に大きな影響を与えます。理由は明白で、あなたが発する言葉はあなたの脳が考えて「選んだ」言葉だからです。

つまりネガティブな言葉を発する時、あなたのメンタルはネガティブに傾いており、メンタルがダメージを受けている状態といえます。

今回のメンタルトレーニング・ケーススタディは「自分の言葉」です。

日常で自分が話す言葉について深く考えることは少ないかもしれませんが、今回は自分が話す言葉の重み、意味について深く考えてみましょう。

あなたが話す言葉は、あなたに向けられた言葉ではないにしても、ネガティブな言葉であった場合、あなたにネガティブな影響を与えます。

ライバルの失敗を願うこともあるでしょう。

失敗しろ!

という言葉を口に出したり、心の中で願ったとき、メンタルはどのような影響を受けるでしょうか。当然脳は「失敗しろ」という願いを実現しようと、ネガティブ方向にシフトしていきます。

他人に対してのネガティブな言葉でも、耳から入れば「自分へのメッセージ」となるのです。

だからこそ、誰に対する言葉であってもメンタルに負荷をかけないためにはポジティブな言葉を使わなくてはいけません。

ライバルに勝ちたいのなら、相手の失敗を願うのではなく自分の努力で勝ちましょう。ライバルに対しても「ベストを尽くせ!」と言葉で、イメージで伝えるのです。

相手を鼓舞するポジティブな言葉を使うことで、あなたのメンタルにもポジティブな言葉が伝わり、具体的に成功するイメージが湧くでしょう。

ライバルに対する言動だけをポジティブに変えるのでは不足です。これまでネガティブに考えていたことすべてを、ポジティブな言葉やイメージに言い換えましょう。

  • 「あいつには勝てない」ではなく「いつか勝ってやる」
  • 「運動は苦手・嫌い」ではなく「私には運動の伸びしろがある」

他者に聞かれると恥ずかしいなら、心の中で自分に言い聞かせましょう。そして、日常のあらゆる言葉をポジティブに言い換える努力を続けましょう。

ポジティブに言い換える努力」こそ、あなたのメンタルを強くするのです。

クレームを「お願い」形式に変えて得られるもの

仕事やプライベートの人付き合いで、誰かに苦言を呈する状況もときに出てきます。

仕事にせよプライベートにせよ、クレームを入れたい相手と今後も引き続きつきあいがあるのなら、できるだけ相手のメンタルや体裁を守りつつ、クレームを受け入れてもらいたいものです。

相手のメンタルにダメージを与えないクレームの入れ方のコツは「お願いする」ことです。

「なんだそんな簡単なことか」と思いましたか?簡単、と思った方はぜひ自分の言動を振り返ってみてください。

ある人にある言動をやめて欲しいとおもったとき「そんなことしないほうがいいよ」とストレートに伝えていないでしょうか?

自分の言動を真正面から否定されたとき、自らを振り返って反省し素直に受け入れ、自分の言動を改めることができる人は、ほぼいないと言っていいでしょう。

自分の言動を否定されることはすなわち、自分自身を否定されることと同義です。だからこそ他者にクレームを入れるとき、他者の言動を否定する言葉を使ってはいけないのです。

前述の例でいうと、「そんなことをしないほうがいいよ」は相手の立場を思いやっているようにも聞こえますが「しないほうがいい」と否定しています。

頭から否定しているために、相手は「自分の言動が否定された」としか受け止めないのです。「自分のことをおもいやって注意してくれた」とは思いません。

自分を否定した人物に、悪意を抱く人も出てきます。相手を否定すると聞き入れてもらえないからこそ「お願い」する言葉を使わなくてはいけないのです。

お願いするときのコツは、主語をあなた自身にすることです。

みんながそう思っているから」と責任の所在をあいまいにすると、相手にあなたの言葉は届きません。

「私、あなたのその言い方(言動)が苦手だから、こういう(ポジティブな)言い方に変えてくれない?」

主語をあなた自身にして修正してほしい相手の言動を指摘し、さらに具体的な「お願い」にすることで、相手は受け入れやすく、行動を修正しやすくなります。

もしあなたの言葉で相手の言動が修正されたら、

  • 「その言動、あなたらしくて私は大好き」
  • 「私の話を聞いてくれてありがとう」

と感謝を伝えてください。

実存主義

実存主義とは、簡単に言えば「本人が選択する行為の幅を広げる」すなわち精神(メンタル)の自由度を高める考え方です。

「人間とは何か?人生とは何か?」など、あらかじめ決められた本質はなく、自分が関わった社会の経験を基にして「人生は自分が主体的に築いていくもの」と考えます。

つまり「人生の主人公は、自分である」ということです。

世の中の理論や理屈に縛られるのではなく、自分の身体と頭で知ったことが、最も人生に役立つという立場をとりましょう。

人生や人間関係に悩んで息苦しさを感じているときは、本人の意思も決定権も失われてしまって、身動きができない状態といえます。

そのようなときの心理状態は、

  • 自分の考えと行動が一致していない
  • 自分の考えと感情(気分)が一致していない
  • 現実的な行動がおろそかになっている
  • 自分を見下したり否定したりしている

のようなネガティブ思考に大きく傾いているのです。

この状況を打開するには、まずじゅうぶんな休息をとり、心身をリラックスさせる必要があります。

休息をとることで心身に余裕が生まれ、ネガティブに傾いた現状を打破しようとするエネルギーを少し補給できるのです。

  • 「自分の実存(内面世界)にいったい何が起きているのか」
  • 「どのような不安や恐怖に、怯えているのか」
  • 「自分は何に抵抗して、どのような回避パターンを作っているのか」

といった現状分析を通して「自分の価値観や行動の基準などの再認識と再決定」を行っていきましょう。

感謝はメンタルの万能薬

クレームと感謝はセット」と学習しましたが、感謝はクレームのときのみならず常に相手に伝えるべき言葉といえます。

なぜならヒトは、絶対に独りでは生きていけないからです。家があり、電気が通り、水道をひねれば水が出ます。これらライフラインを整えてくれる人たちがいるおかげで、快適な生活が送れるわけです。

直接その人たちに感謝を伝える機会はないかもしれませんが、常に感謝を気持ちは忘れずに持っておきましょう。

やることは、普段の他者とのコミュニケーションの最後に感謝を伝える言葉をプラスするだけ。

  • 「いつもありがとうございます」
  • 「お世話になりました。ありがとうございます」
  • 「いつも助かっています」

このひと言があるだけで、あなたのメンタルからネガティブなエネルギーが減っていきます。もちろん自己満足で構いません。

誰かに褒めてもらいたくて感謝を伝えるわけではありません。誰かから「なぜそんなことを言うの?」と言われても「自己満足だよ」と謙虚な姿勢を貫くといいでしょう。

あなたのポジティブな言動、メンタルトレーニングを妨げる他者の言動は、他者に迷惑をかけているなどの事情がなければ、スルーしてOKです。

言葉の重みを確認するタイミングとは

自分の言葉がネガティブかどうかを意識するチャンスは、2回あります。それは「言葉を発する前と、言葉を発した後」です。

2回のチャンスを生かすには、言葉を発する前に自分が言おうとする言葉が「ネガティブなのか、ポジティブなのか」を考えることが求められます。

言葉を発する前に「一拍(ひと呼吸)」おいて、考える時間を取るのです。慣れないうちは、ひとつひとつ考えてから話さなければいけないことに少し戸惑うかもしれません。

しかしこれはメンタルを守り、鍛えるために必要なトレーニングであり「自分の言葉」を磨くために必要なことです。

慣れるまで諦めずに

  • 「今から言おうとする言葉は、誰かを傷つけないか」
  • 「ポジティブな言葉に変換されているか」

を考えて習慣にしていきましょう。

言葉を発する前に一拍おいて考える習慣をつけるうちに「この場合は、このポジティブな言葉に言い換えよう」というケーススタディが蓄積されていきます。

つまりあなたの中に「ポジティブな言葉の辞書」が作られていくのです。

辞書ができていくにつれて、あなたはその辞書からそのシーンにふさわしいポジティブな言葉を引き出すだけとなっていきます。

言いかえが難しいから」と一拍おく作業をやめたり、コミュニケーションの頻度を落としたりしてはいけません。むしろ、慣れないうちは一回目のチャンスは「失敗するもの」ととらえましょう。

2回目の「言葉を発した後」に気づくことで、ケーススタディを積み重ねることができます。

失敗、どんどんやりましょう。失敗することをフォローするために、2回チャンスがあります。

失敗しないと、成功への道筋は見えてきません。「前回はこう失敗したらか、今回はこうしよう」というリカバリの方法を覚えることも、メンタルトレーニングには不可欠です。

「失敗したくない」考えは、メンタルトレーニングを妨げます。数をこなしていくうちに、一拍おく作業ができるようになれば成功です。

失敗を恐れず、コミュニケーションをどんどんとっていってください。

確認問題

では、第11章で学んだことを確認してみましょう。