第10章:ケーススタディ『人間関係』

交流分析における「やりとり分析」の深堀

やりとり分析については、第8章で以下のように触れました。

やりとり分析とは、親心(P)・大人心(A)・子供心(C)の3つの心を、様々な人間関係の中でどうやって活用しているのかを分析することです。

第8章:メンタルトレーニング実践編③内外のコミュニケーションのバランスを取る「交流分析における「構造分析」と「やりとり分析」」

ここではやりとり分析をさらに深堀します。

やりとり分析には

  • 補助的交流
  • 交差的交流
  • 裏面的交流

があります。

補助的交流とは「AにはA」と、お互いに求めている反応が素直に返ってくる交流です。

補助的交流ができれば、好ましい人間関係を築くことができます。

例えば、

部下「本日の会議は15時から開始でよろしいですか?(A)」

上司「来客があるので、16時からへ変更をお願いします。」

と答えるようなケースです。

円滑なコミュニケーションがとれており、お互いにメンタルへのストレスがない状態です。

交差的交流とは、自分が求めている反応とは別の反応が返ってくるような交流の状態です。

この交流では、相手と話しがかみ合わないので、話が続かなかったり喧嘩になってしまったりとコミュニケーションには好ましくない交流といえます。

人間関係も決して良好とはいえません。

例えば

部下「この仕事はこのようにやれば良かったですか?」

上司「そんなこともまだ覚えてないのか。物覚えの悪いやつだな。」

というように、批判・説教が返ってくる状態です。

一方で、見方によっては決して良好な人間関係が構築できているとは言い難い交差的交流でも、役立つ場面があります。

例えば、急に不機嫌になった友達が怒鳴ってきた状況を想像してみましょう。

怒鳴ってきたことに対して「何だよ!」と返すのではなく「とりあえず落ち着こう」と返すことで、言い争いを避けることができます。

裏面的交流とは、言葉の裏に別の意図があったり、あらゆる感情を隠して演じるようなコミュニケーションのやり方です。

例えば、表では

部下:「さすが部長!驚きです!」

部長:「どうだ!凄いだろ!」

というやり取りの中で、実は

部下:ただのまぐれで浮かれやがって!

という本音がある場合です。このような裏面的交流は、日常生活の様々な場面で見られるでしょう。

また、上記の裏面的交流に加えて「交差的裏面交流」があります。交差的裏面交流はコミュニケーションを取る上で、最も避けるべき交流パターンです。

なぜならお互い裏の感情を隠してコミュニケーションを取ろうとするので、人間関係が取り返しのつかない問題に発展してしまう原因になるからです。

やりとり分析における3つの交流で、ほとんどの人間関係は成り立っているといえるでしょう。

人間関係を良好に保つ交流のやり方を知ることで、お互いへのメンタルへのダメージを避けることが可能です。

一方で「やってはいけない交流」についても覚えておくことで、人間関係を断絶せずにすむでしょう。

交流分析における「ゲーム分析」の深堀

ゲーム分析については、第8章で言葉のみが出てきた状態でした。

交流分析は「構造分析」「やりとり分析」「ゲーム分析」「脚本分析」「ストローク」の5つで成り立っています。

第8章:メンタルトレーニング実践編③内外のコミュニケーションのバランスを取る「交流分析における「構造分析」と「やりとり分析」」

心理学のなかでも人間関係において「ゲーム」とは、何度も繰り返され最後には嫌な気分で終わる、こじれる関係の進行を指して言います。

この「ゲーム」の存在に気づくことで、複雑な人間関係のからくりについて理解し「ゲーム」を手放した人間関係を手に入れることができるでしょう。

「ゲーム」の始まりにはいくつかのきっかけがあります。

そのひとつが「はい、でも(Yes, but)」です。「はい、でも」とは、Yes butとも言われています。このゲームを仕掛ける人は「相談を持ちかける」ことでゲームをスタートさせます。

例えば、深夜に電話をかけてきたときに「こういう風に困っている」という相談を持ち掛けられます。

相談をしばらく聞いた後に「こうしてみたら?」と提案をしても「そうだよね」と一旦は受け取りつつ「でもそれは~だから難しい」と最終的には断ってしまいます。

このゲームに乗ってしまうと「解決方法の提案」→「一旦受け取って断る」→「別の解決方法を提案」という形が永遠にループします。

ゲームのもうひとつのきっかけは「大騒ぎ」です。

大騒ぎとは、自分の不幸・苦痛を「こんなにもひどい状況だ!」と他人に大袈裟にアピールすることで、他人の同情・関心を集めようとするゲームです。

「大騒ぎ」を仕掛ける人は、自分の不幸・苦痛を派手に嘆いて悲しみながらも、それらの問題を具体的に解決する行動を取らずに「自分がどれだけひどい状況にあるか」を訴えて大騒ぎし、他者の関心と注目を集めます。

病気の症状や苦しみを利用して「社会的責任」を逃れたり、自分の不幸や様々な問題を強くアピールすることで他人の同情を引き出したりしますが、最終的には「大袈裟な人」「騒ぐだけで行動しない」といった認識をされてしまい、誰からも相手にされなくなることが少なくありません。

「大騒ぎ」する人は、自分以外の他者に興味を示さないことが多いため、対等で良好な人間関係を築くことが難しいでしょう。

物理的心・理的な距離をとり、接点を可能な限り減らすことがメンタルを守る方法といえます。

制御は「支配」

これまでのメンタルトレーニングの勉強で、多様性を受け入れることや自他を区別すること、聞き上手になることを学びました。

これらの学びの要点は「他者の言動は制御できない」ことを改めて認識して行動することです。

他者は他者なりの育ち方をするなかで得た考え方を持っています。それはDNAのようなもので、自分以外の人とは決して共有できないものです。

ときに「似た言動」をする人がいますが、あくまで「似ている」だけで「同じ」ではないのです。

いつも一緒に過ごしていてお互いに「親友」を想える人がいたとしても、その人の言動を制御できる、とは考えてはいけないのです。

制御とは、すなわち支配することといえます。他者の言動を制御できる、と感じた瞬間に、上下関係が生まれ、健全な人間関係を築く可能性は消えてしまいます。

一方で他者の言動を制御できないことを踏まえて人間関係を築いていけば、他者がどのような言動をしてもネガティブな影響を受けることはなくなるのです。

なぜなら他者の言動の責任はすべて他者本人にあり、あなたが関知することではないからです。

「どうしてこの人は、こんな言動をするのだろう」とイライラしたり、不安に駆られたりする必要はありません。「この人は、こういう言動をする人だ」と認識するだけでいいのです。

不快な言動があれば、意識的に聞き流しましょう。

不快かどうかは、あなたの主観と感性にしたがって決めていいことです。他者もまた、あなたがどのように考えるかを制御できません。他者を制御しないことで、あなた自身も心身ともに誰にも制御されず、自由でいられるでしょう。

期待は「搾取」

他者を制御ししないとともに、他者に対する期待を捨てることも実践してみましょう。

他者への期待を捨てることで、「あの人はコレをやってくれなかった」と要らぬストレスを抱えずに済みます。

他者の同意があったならともかく、勝手に期待したのなら、期待した結果が得られなくても、ある意味当然でしょう。

他者はあなたに期待されていたことなど知りもしません。他者の同意なく何らかの行為を期待することは「厚意の搾取」といえます。

あなた自身が「やってもらって当たり前だ」と思い上がっていることに他なりません。他者の同意がない「期待」もまた、他者を支配することと同じです。

他者が同じ行為をしたとしても、あなたが期待していたかどうかで受け止め方が変化するのは、他者にとって理不尽に他なりません。

他者への期待を排除することで、あなたは自分に向けられた厚意に素直に感謝できるようになるでしょう。

あなたがメンタルトレーニングでこれまで学んだことを実践していれば、他者に期待せずとも感謝され、厚意に感謝できる存在になれるはずです。

聞き手に求められるもの

人は自分の話を誰かに聞いてほしいと思っているものです。悩みや愚痴、不安は、言葉にすることで他人と共有できます。

他人にネガティブな感情を聞いてもらうことで、自分のメンタルの負荷を減らすことができるのです。

人間関係においては、自分が話すのではなく「聞き手」に徹しましょう。とはいえ、相手の話をすべて真正面から受け止め、共感する必要はありません。

相手の話にひとつひとつ共感していては、あなたのメンタルがネガティブな感情であふれてしまいます。

聞き手に徹する」コツは「相手に気持ちよく話をさせる」ことであり、共感する必要はないのです。

相手から軽く「あなたって、話聞いてないよね」という言葉を引き出せたら、あなたは「聞き手に徹する」ことができているといえます。

相手が「あなたは話を聞いていないけれど、私の話を聞く時間を作ってくれている」と理解している証拠だからです。

メンタルトレーニングのケーススタディにおける「聞き手に徹する」とは、相手のストレスを受け止めることではありません。

話をさせることで、相手のメンタルの負荷を軽くする手伝いをすることです。相手が本当に悩みを解決したいなら、適切なアドバイスをくれる専門家を探すでしょう。

話し相手に、まだ心理学の専門家ではないあなたを選んだということは、相手は悩みの解決を真剣に求めていないのかもしれません。

「あ、ちょっとメンタルに負荷がかかってて、軽くしたいんだな」と解釈して、共感せずただ相槌を打って話を聞く時間を割きます。

それが「聞き手」としての、求められている対応なのです。

確認問題

では、第10章で学んだことを確認してみましょう。