成功体験を記憶する
ここからは実践を踏まえた「ワンランクアップを目指す」メンタルトレーニングです。
ここまで、
- 何事もポジティブに考えること
- 他人のネガティブな感情を正面から受け止めない
- 謙虚さを身につける
といったことを学びました。
次は「成功体験を分析して、記憶する」ことです。
仕事やプライベートで何かにチャレンジし、成功したときの体験をいくつかの要素にわけて分析し、再現するために記憶しましょう。
成功体験を分析して記憶することで再現しやすくなるうえに、成功体験をもとに新たなチャレンジに挑みやすくなるのです。
新たな体験はメンタルを成長させる「栄養」となります。
「栄養」となる一方で、まったく経験のないことにチャレンジするときは、知識不足による不安がメンタルに負荷をかけてしまいます。
その不安を打ち消すのに役立つのは「成功体験の記憶」なのです。成功体験がそのまま新たな経験に生かされるとは限りません。
成功体験があると「以前はコレで成功しているから、その一部を今回のチャレンジに生かしてみよう」と未経験なことにもポジティブに取り組める、大きなモチベーションとなります。
成功体験を分析するには
- それを経験するきっかけは何か(例:たまたま知り合いから声をかけられた、もともと興味があることを公言していたらチャンスがきた)
- なぜチャレンジしようとおもったか(例:面白そうだったから、先輩が協力してくれるから、給料が上がるから、興味があったから)
- 成功するまでにどんな努力をしたか(例:独学で勉強した、先輩に時間を割いてもらって教えてもらった、自腹でスクールに通った)
- 壁をどうやって乗り越えたか(例:独学では無理だったので、その道の達人に教えてもらいに行った、先輩の仕事を代わりにやり、教えてもらう時間を作った、上級クラスで学んだ)
- チャレンジの結果どうなったのか(例:昇進した、大きな契約を獲得した、転職を成功させた、独立できた)
これらの要素を書き出すことから始めます。
書き出しながら追体験することで、記憶を明確に思い出すことができるのです。
分析するうえで特に重要な要素は「壁をどうやって乗り越えたか」です。
なぜなら壁にぶつかった時点で、メンタルには相当の負荷がかかっており、心が折れやすく諦めやすい心理状態になっているからです。
ネガティブに陥りやすい状況のなか、ポジティブな心理を保つことができた要因はなんだったのか、自分の心を支えたモノやヒトの存在は何かを認識することで、今後、何事にもひるまずチャレンジできる心理状態を作りやすくなります。
ここでひとつ、さらに重要な認識をする必要があります。
壁を乗り越えたとき誰かのサポートが得られたということは、あなたが「サポートしたい」と思える言動をしていた証拠です。
メンタルトレーニングができている自分に自信をもつとともに、サポートしてくれた人へ最大限の感謝を伝えることも忘れないでください。
自分の機嫌を取る
ストレスが溜まってくると、どうしても他者へ敬意を払うことができなくなったり、優しくできなくなったりするでしょう。
しかし、自分の機嫌を他者にとってもらってはいけません。なぜなら、あなたのストレスは他者には関係のないことだからです。
もちろん「あの人のせいで自分が理不尽な目にあった」ということもあります。
それでも当事者にクレームを言うこと以外、あなたは自分のストレスを自分で管理するしかないのです。
イライラした態度をして、周囲の人たちに気を遣わせるのは、マナー違反といえます。メンタルトレーニングにおいて、パブリックな状況では感情を出してはいけません。
いつ何時でも「平常を保つ」ことが、仕事や人間関係の基礎となるからです。
- 「あの人はいつも不機嫌だ」
- 「いつどんなタイミングで怒鳴るかわからないから怖い」
このような人は、仕事のスムーズな進行を妨げるだけでなく、人間関係を不安定なものにしてしまいます。
少なくともあなた自身は、パブリックな場において常に「平常」を保つ努力をしましょう。
「平常」を保つコツは、自分の機嫌の取り方を知ることです。
ストレスが限界を迎えるまえに、自分で自分の機嫌を取り、ストレスを発散しましょう。
- 「ちょっと仕事が忙しすぎたから、今日はここで切り上げて早く帰って休もう」
- 「イライラしそうだから早く寝よう」
- 「ストレスが溜まってきたから、今日は甘いものでも食べよう」
- 「誰かと話したいから家族に話を聞いてもらおう」
- 「スポーツジムにいって、身体を動かそう」
自分の機嫌の取り方は人によってさまざまでしょう。
「コレをやると、頭をカラッポにできてネガティブな感情が消える」ということを探して、いくつか「自分の機嫌をとる方法」を見繕っておくことをおすすめします。
注意してほしいのは、自分以外の誰かにストレスを転移しないことです。
話を聞いてもらうと、自分はネガティブな感情を吐き出せるため、気持ちが楽になるかもしれません。しかし、話を聞いてくれた相手が他人の感情を真正面から受け止める性格であった場合、あなたのネガティブな感情をその人がそのまま受け取ってしまう可能性があります。
他者に話を聞いてもらうときは「相槌だけ打って、ほぼ聞き流してくれる人」を選びましょう。
もし都合よく聞き流してくれる相手が見つからない場合は、誰も聞いていない場所、自分の部屋やひとり用のカラオケボックスなどで、大声を出す方法があります。
聞き流してくれる相手が見つからないとき、間違っても文字で残るSNSに、ネガティブな感情を吐き出さないことです。
インターネット上の情報は、一度投稿すると二度と取り消すことはできません。
他人のストレスを受け止めない
身近にいつも不機嫌なオーラを出す人がいたとします。
すると自分までなんだかイライラしたり、不安になったりしたことはないでしょうか。
もしそのような経験をしたことがある場合は「他人のストレスを受け止めている」証拠といえます。他者のストレスは、その人のものでありその人が対処すべきことです。
第三者にストレスを転移したり、機嫌を取ってもらおうとしてはいけません。今回のメンタルトレーニングは「他者のストレスを受け止めない」トレーニングです。
わかりやすくいうと「スルースキル」を身につけようということになります。ようするに「不機嫌な人には近寄らない」ことを実践しましょう。
「挨拶だけ」「仕事に必要な会話だけ」など必要最低限の会話にとどめ、ストレスを振りまく人から物理的にも心理的にも距離をとります。
物理的・心理的に距離をとることで、ストレスの転移によるメンタルへの負荷を避けることが可能です。
多少「冷たい人」と思われても「スルーすること」「距離をとること」を止めてはいけません。
言葉を話せない0歳児ならともかく、いい大人が他者にストレスを転移したり、機嫌を取ってもらうことを期待するなどやってはいけないことです。
徹底的に「不機嫌な人をスルー」し続けることで、周囲にあなたが「他人の感情に影響されない人」と認識してもらえたら、ワンランクアップしたメンタルトレーニングは一定の成果を出したといえるでしょう。
他人の機嫌をとらない
「他人の機嫌をとらない」ことは「他人のストレスを受け止めない」ことに通じるメンタルトレーニングです。
他人のストレスを避ける手段として、心理的・物理的に距離をとりましょうという話をしました。
しかし距離をとることが難しい相手もいます。
距離をとることが難しいとしても「相手のストレスを解消してあげよう」と自分の労力と時間を割いてはいけません。
繰り返しになりますが「他者のストレスは、その人のものでありその人が対処すべきこと」というのがメンタルトレーニングの基本だからです。
動物で例えた場合、野良猫にエサを一度与えると、永遠に与え続けないといけなくなります。しかし、エサの取り方を教えてあげることで、野良猫は人間のサポートを受けず自分で生きていけるようになります。
この例えと同じで「自分のストレスを他人に転移せず、自分の機嫌は自分でとる」ことを覚えてもらわないといけないのです。
もしあなたが、この先ずっとその人の機嫌をとり続ける覚悟がないのなら、情けをかけてはいけません。
一度情けをかけて機嫌を取ってあげたらその人は、これから先もあなたにずっと「機嫌をとってもらおう」とするでしょう。
そうなると「どうして今回、あの人は自分の機嫌をとってくれないのか」とネガティブな感情をぶつけられることになるかもしれません。
たった一度の厚意だったはずが、永遠の敵意に変わるかもしれないのです。だから絶対に他者の機嫌を取ってはいけません。
物理的・心理的な距離をとることが難しい相手の場合は、
- 「徹底的なスルー」
- 「機嫌の取り方をサポート」
する方法があります。
機嫌の取り方をサポートするときは必ず「サポートするのは今回だけ。次回からは自分で自分の機嫌を取るように」と伝えることを忘れてはいけません。
一度機嫌の取り方をサポートしたら「徹底的なスルー」で問題ありません。
他者に自分の機嫌をとってもらわないと感情のコントロールができない人を、あなたの人生に抱え込む必要はないのです。
あなたの人生はあなただけのものです。あなたの人生をポジティブに生き抜くために、物心ともに負荷をかけてくる他者は、柔らかくできるだけ早くあなたの人生から退場してもらいましょう。
「損」と「怒り」を手放す
理不尽な対応をされたら、相手に相応の仕返しをしたくなるでしょう。怒りの感情は、メンタルに大きな負荷をかけてしまいます。
理不尽な対応によるメンタルへのダメージと怒りを抱え込むことによるメンタルのダメージは、一刻も早く手放さなくてはいけません。
- 「やられっぱなしは嫌だ」
- 「やり返さなくては、気が済まない」
と感じることもあります。
やり返したことで問題は解決しないばかりか、より大きなネガティブな感情となって自分に返ってくる可能性があります。
他者に対して理不尽な言動を平然とできる人が、自分に対する理不尽を真摯に受け止め、反省するでしょうか?
自分が先に理不尽な対応をしたことすら認識していないために、あなただけを悪者にしてしまうかもしれません。
理不尽な言動によって、あなたはダメージを受けました。理不尽な言動を許せと言っているのではありません。
許さなくてもいいので手放しましょう。
少なくとも第三者に対しては、なかった振りをしましょう。理不尽な対応をした張本人とは、できれば今後一切関わりを持たないことをおすすめします。
相手に「あなたの理不尽な対応を、許さない」と無言のメッセージを送るのです。
関わりを断つことで、あなたは理不尽な対応によって受けた「損」や「怒り」を少しずつ手放していけるでしょう。
時間をかけて構いません。忘れようとする努力も必要もありません。
時間とともにゆっくりと、でも確実に「損」や「怒り」はあなたから離れていきメンタルのダメージも修復されていきます。
くれぐれも理不尽な記憶を掘り起こしては、自分で自分のメンタルを傷つけることはしないでください。
確認問題
では、第9章で学んだことを確認してみましょう。