第8章:メンタルトレーニング実践編③内外のコミュニケーションのバランスを取る

指摘・苦言は「今の評価」

ときに誰かから自分の欠点を指摘されたり、言動についての苦言を呈されることもあるでしょう。

誰かから指摘や苦言を受けたときこそ「メンタルトレーニングのチャンス」といえます。

会社に寄せられるさまざまなお客様からのクレームを処理するときもまた「メンタルトレーニングのチャンス」です。

それはなぜでしょうか。

あなたに指摘や苦言を呈する人は、少なくともあなたに何らかの関心があることを意味します。

もしかしたらネガティブな感情からの指摘や苦言かもしれません。

「困らせてやろう」

という考えからの苦言かもしれません。

しかしメンタルトレーニングにおいては「苦言はあなたが成長するチャンス」ととらえます。

「どうしてこんなこともできないんだ!」という言葉は「あなたにコレができるようになってほしい」という想いだと受け止めることができます。

あなたは「申し訳ありません。お時間あるときに、お手数ですがもう一度やり方を教えていただけないでしょうか」と頭を下げればいいのです。

断られたら、教えてくれそうな別の人を探しましょう。指摘されたことを繰り返さない努力をするのです。同様に「またミスしていましたよ」という言葉は「同じミスを繰り返さないように、注意してくださいね」という願いが込められています。

同じミスを繰り返さないようにするには、

  • 指摘されたことをメモして、見やすいところに貼っておく
  • 成果物を納品、報告する前に指摘されたところをまたミスしていないか、メモを参考にチェックする

と自分の行動を変えましょう。

自分はこの部分をミスしやすい」ということを自覚するのは、指摘や苦言を受け止めるメンタルトレーニングの第一歩です。

「ミスは誰でもする」と開き直らず「ミスをする」前提で、繰り返しチェックしたりていねいに作業したりする「ミスをなくす心構え」を持つことが、あなたのメンタルを守り大きく成長させます。

苦言や指摘を「ネガティブなもの」と受け止めれば、メンタルは少なくないダメージを受けてしまいます。

一方で「成長できるチャンス」とポジティブにとらえることができれば、メンタルは守られるうえ、成長できるのです。

指摘や苦言をうけたとき、耳をふさいだりネガティブに受け止めたりするのではなく、ポジティブな言葉に変換して「どう行動すればよいか」を考えましょう。

交流分析における「構造分析」と「やりとり分析」

交流分析とは、アメリカの精神科医であるバーンが「お互いに反応し合っている人々の間で行われている交流を分析すること」を目指して開発された分析法です。

交流分析の目的は、人が脅迫的に従ってしまう対人関係の様式を発見して、新しく適切な対人関係の様式を再構築していくことです。

交流分析は

  • 構造分析
  • やりとり分析
  • ゲーム分析
  • 脚本分析
  • ストローク

の5つで成り立っています。メンタルトレーニングにおいては今回「構造分析」と「やりとり分析」に注目します。

構造分析とは、人間の性格はどうやって構成されているのかという要素を分析していくものです。

構造分析では、心は

  • 「親心(P)」
  • 「大人心(A)」
  • 「子供心(C)」

でできていると考えられています。

それぞれの心の働きは、大まかに以下のように説明されます。

  • 親心(P):ルールを守る、厳格さ、教育精神、いたわり、保護者的愛情など
  • 大人心(A):現実への対処、損得勘定、利害調整など
  • 子供心(C):無邪気さ、創造性、自由さなど

人間は誰もがこの3種類の心を持っていると考えます。しかし、それぞれの3つの心の動きの強さは、人によって異なります。

やりとり分析とは、親心(P)・大人心(A)・子供心(C)の3つの心を、様々な人間関係の中でどうやって活用しているのかを分析することです。

構造分析でのP・A・Cは個々人の特性を指していますが、実際に人と接するときに常にそれぞれの心の出現する強さは同じではありません。

例えば、家では大人しい礼儀正しい子ども(P・Aが強い)が、学校ではユーモアたっぷりでイタズラが大好きなにぎやかな子供(Cが強い状態)であるといったケースです。

つまり、人間は時と場合に応じてP・A・Cの強さをコントロールしていると考えられるのです。

またそのようにTPOに応じた適切なコントロールができる状態が、メンタルトレーニングの目指すところであり、好ましい状態といえます。

怒りのコントロール法は2パターン

怒りの感情を抱いたとき、メンタルは少なくないダメージを受けています。怒りが「誰のものか」によって、解消する方法は異なり、メンタルケアへのアプローチも変わるのです。

メンタルトレーニングにおける「怒り」のコントロール法は、まず「誰の怒りか」を分析することです。

「自分に対する怒り」でイライラした経験はありませんか?

  • 「どうして自分はこんなこともできないんだろう」
  • 「なぜあんなことをしてしまったのか」

といったことです。

自分で自分を否定したり卑下したりする行為は、メンタルに大きなダメージを与えてしまいます。

そのうえ「否定された自分」「卑下された自分」であろうと、行動しがちになってしまうのです。

いわゆる「自己暗示」です。

自己否定は、悪循環しか生みません。

なので今抱いている「怒り」が「自分に対する怒り」であるとわかったら「怒り」をすぐに鎮める必要があります。

「怒り」を鎮めるうえで最も良い方法のひとつは「寝る」ことです。オーバーヒートしそうな脳を、寝ることでクールダウンさせます。

もちろん仕事中に寝るわけにはいきません。寝ることが難しい場合の脳のクールダウン法は、その場を離れ、熱い飲み物をいただくことです。

その場を離れることで「怒り」を目にすることがなくなり、脳がクールダウンする隙が生まれるうえ、「怒り」を鎮めるための「ゆっくりした行動」がさらに脳のクールダウンに貢献します。

自分に対する「怒り」を感じた場合は、以上2つのパターンを試して、効果を確認しましょう。

一方で「他者に対する怒り」は、別のコントロール法がはじめに必要になります。

なぜなら、他者の言動はコントロールできないからです。他者が自分のストレスを解消するために、第三者を傷つけることがあります。

避けようのない他者のストレスの転移があったときには、まず自分のメンタルを慰めなくてはいけないのです。

  • 「これは自分の責任ではない」
  • 「これは自分の怒りではない」

と声に出して、自分に言い聞かせましょう。

何度か繰り返して自分に言い聞かせることで、脳はその言葉を信じようとします。

これも一種の自己暗示です。

そのあとは「自分への怒り」と同じように脳をクールダウンさせてあげましょう。メンタルトレーニングにおいては「鍛える」だけではなく、ときに「ケアする」ことも大切です。

失敗からの立ち直り方

仕事や受験などで失敗したとき「二度と立ち直れない」と感じる人もいるかもしれません。

人生において、やり直せないことはありません。今回のメンタルトレーニングを行う前に「人生においてやり直せないことはない」と覚えてください。

失敗したときにもっとも重要なことは「失敗の原因を正しく把握する」ことです。

時間を巻き戻すことは不可能であるために、失敗を取り返そうとするなら次のチャレンジで成功しなくてはいけません。

いつまでも過去の失敗にこだわってネガティブな感情に浸りきっていては、次の成功を掴むことはできないのです。

失敗を経験したあとに行動しないことこそ、人生における最大の失敗だと覚えておきましょう。

失敗には「自分のスキル・認識不足」「仕事のやり方に問題がある」「慢心(油断)があった」といった原因が考えられます。

まずは「自分のスキル・認識不足」で失敗した場合、次回までに自分のスキルを磨き、任された仕事について正確に認識することで失敗を回避できる確率が上がるでしょう。

もしスキルアップが間に合わなければ、第三者のサポートを頼む方法もあります。

自分のスキルを磨くポジティブな行動、第三者に頭を下げてサポートを依頼する行動は、メンタルトレーニングの一助となるでしょう。

仕事のやり方に問題がある」ために失敗した場合、異なる方法で仕事をやるシミュレーションを行ったうえで、実行する方法があります。

シミュレーションをする際は、その仕事に詳しい先輩や上司に確認してもらうことで、成功する確率を上げられます。

自分で考え、失敗を踏まえて二度と同じ失敗をしないためのシミュレーションを行うことでも、メンタルトレーニングができます。

「慢心(油断)があった」ために失敗した場合は、自分のメンタルとの戦いとなります。

実力を過信していた「この程度でいいだろう」と軽んじていた自分の考えの浅薄さを反省しなければなりません。

失敗した後の行動において「慢心(油断)があった」ケースは、メンタルトレーニングにおいてもっとも負荷がかかります。

自分の言動を反省するとともに、周囲の人たちの信頼を裏切った事実を受け止めなくてはいけないからです。

愚直に失敗を挽回する作業に集中し、成功という結果を出すことで、周囲の人たちの信頼を取り戻す努力をしましょう。

いつまでも失敗を引きずらない」ことができてこそメンタルトレーニングの成果が出ているといえます。

確認問題

では、第8章で学んだことを確認してみましょう。