第1章:メンタルトレーニングとは

自分の生産性を最大化する「自己管理法」

メンタルトレーナーの資格を勉強するにあたってはまず「メンタルトレーニングとは何か」を定義する必要があります。

ここではメンタルトレーニングを「自分の生産性を最大化する自己管理法」と定義します。

精神と身体は絶対に切り離すことはできない関係です。精神状態は常に、身体のパフォーマンスを左右します。

自分の仕事や勉強の生産性、効率、作業の結果を最大限発揮しようとするなら、自分の精神をコントロールする方法を学ぶ必要があるのです。

例えばあなたがスーパーのレジをしているとします。そこで感じのいいお客さんが来ました。

あなたがここで「お会計は700円になります」とだけ発言すれば接客としては問題ありません。店員と客の関係性も保つことができます。

しかしお客さんは心の中で「少し話してみたい」と思っているかもしれません。

ここで一言相手の感情に訴えかけるような発言、例えば野菜を手に取りながら「〇〇は今が旬でおいしいですよね」という発言をすることで、それをきっかけに店員とお客という枠を超えたコミュニケーションがうまれます。

レジ係としての仕事以外に、接客としての生産性を高めることができれば、あなたの職場での価値は高まり替えのきかない人材になり、自分の生産性を最大化できるのです。

メンタルトレーニングとしての傾聴

傾聴とは「相手の話をただ聞くだけではなく、相手の話に共感しながら深く聞き入ること」です。

相手の話に共感しながら深く聞き入ることが必要な場面では「傾聴=問題解決」とされています。

誰でも相手の話をただ聞くことはできますが、共感しながら深く聞き入ることができる人は少ないのです。

つまり傾聴ができれば、一定のメンタルトレーニングをこなしたことと同じと言えます。

傾聴が聞くことを重視しているために一方的に相手の話を聞く姿勢ばかりが重視されますが、コミュニケーションは双方のやり取りがあってはじめて成立するものです。

聞くだけでは、コミュニケーションがとれているとは言えません。

本来の傾聴というものは特に「非言語スキル」を中心に心から共感していながら、しっかりと受容しているということを相手に伝えるという前提が含まれています。

「傾聴=聞く」ではなく、傾聴=相手に自分が味方であることを、感情交流のためのコミュニケーションスキルを使って相手に伝えながら聞くと理解したほうが、傾聴の効果を正しく認識できるでしょう。

メンタルトレーニングは「心のマネジメント」

精神とはここでは「心の持ち方」「心のありよう」と定義します。

では「心の持ち方」「心のありよう」とは具体的にどのようなことでしょうか。それは、物事をポジティブにとらえる切り口を知ることです。

よくある例として「コップに半分入っている水」が使われます。

  1. 「まだ半分ある」
  2. 「もう半分しかない」

同じ「コップに半分の水」という事実が、まるで正反対の事実であるかのようなとらえ方ができるのです。

ここでひとつのトレーニングができます。

それは常に「より良い方に考えること」です。

上記の例では

①「まだ半分ある」

と考えることを指します。

なぜ「まだ半分ある」ととらえることがメンタルトレーニングになるのでしょうか。

それは変えられない事実を前向きにとらえることで、ネガティブな言葉による「心へのダメージを避けることができる」からです。

役割関係スキル

役割関係スキルとは、自分の伝えたいことを相手に的確に伝える力であり、コミュニケーションをとる上で重要なスキルのひとつです。

役割関係には、それぞれ遂行しなければならない「理解力把握スキル」「論理的思考力」「専門知識力」の3つの目的があります。

それは、相手に自分が思った通りの行動・反応をしてもらうために、正確で誤解のないコミュニケーションをとることです。

理解力把握スキルとは、相手が対象となる事柄について何をどれくらい知っているのか、理解しているかを推測・把握する力です。

例えばあなたがパソコン販売のセールスマンだったとして、パソコンを売る際に顧客が「どの程度パソコンについて知っていて、何を知らないか」を考えることです。

パソコンや精密機器に知見がないお年寄りにCPUやプロセッサの話をしても伝わりません。相手の状況や身振りなどから、相手がどこまで理解しているかを推測することが大切です。

もしパソコンに詳しくない顧客に売る場合は、機能の話をするよりも、実際にどう使いやすいのかというアクションベースで話をする必要があります。

これは理解力による表現の調整を行ったということです。これも理解力把握スキルに含まれます。

さらに、表現がいくら上手でも論理性に欠けていると説得力は生まれません。

パソコンを売る際にも使いやすさの肌感を説明するのと同時に、なぜスムーズに動くのかという根拠も説明する場合があります。

特定の物事との関係や前後関係を的確に伝えないと役割関係は困難になるケースが多くなります。カウンセリングでも分析などを行う場合は特に重要になります。

専門知識力は、コミュニケーションスキルに含まれない場合もあります。しかし、実際に相手に的確に状況を伝えるためには、自分自身が状況をよく理解していることが重要です。

どんなにこれまで挙げたスキルが高い人でも、パソコンの知識が全くないのに販売員としてパソコンを売ることができないように、役割関係をこなすには専門知識が不可欠です。

逆に、役割関係の中でも定型化されたパターンの反応は多くの職業・場面で見られます。

つまり専門知識力を磨くことで、ある程度ほかの要素をカバーできるともいえるのです。

「恒常性」を打ち破るには

人生は何度でもやり直せる」確かにそうです。しかしこれは、これから再挑戦しようとする人を支えるための言葉です。

誰しも人生をやり直さず失敗することなく生き抜いていきたいと考えているのではないでしょうか。

では「人生のやり直し」を避けるにはどうしたらいいのか。

その答えの一つが「メンタルをトレーニングして生き抜く」ことです。生き抜くためには常に「変化を受け入れる」必要があります。

ヒトの脳には「恒常性」という、現状を維持しようとする本能がある、と言われています。

新たにダイエットをしようとしても続かなかったり、何か勉強をしようとしても続かなかったりするのは、脳の「恒常性」が新たな習慣を拒絶していることが原因かもしれません。

なのでメンタルトレーニングをするにあたってはまずこの「恒常性」を打破する必要があります。

「変わりたい」と思ったら、紙に油性ペンで

  1. なぜ変わりたいのか
  2. 変わることへの不安があるか
  3. 不安の原因は何か

を書いてみましょう。

これらすべてを解決することがメンタルトレーニングのスタートであり、最初のゴールとなるのです。

確認問題

では、第1章で学んだことを確認してみましょう。