第6章:変化し続ける「こころ」と「からだ」

成人期

変化は続いていく

生まれたばかりの赤ちゃんは、からだが小さく自分で動くことができません。しかしやがて、自分で歩くようになって、言葉を話すようになります。からだもこころも発達して、その変化は目覚ましいです。

それでは、大人はどうでしょうか。30歳の人と40歳の人を比べてみると、同じように見えるかもしれませんが、両者のこころのあり方は大きく違います。からだが成熟していても、こころは常に変化し続けています。

その1つがアイデンティティの変化です。青年期まではアイデンティティを確立する。つまり「自分自身をつくる」というのが課題でしたが、成人期以降は「次世代や将来世代を育てる」ことが課題になってきます。

また、子どもは年齢に応じて変化していきますが、大人の場合には、その人が置かれた立場や個人的な経験によって変化することが多いと考えられています。

知能は衰えない

人間は、年を重ねるにつれて、からだは衰えていきます。老眼になったり、筋力が衰えたり、柔軟性や瞬発力、バランス能力なども低下していきます。こうした変化を退歩的発達と呼んでいます。

しかし、年をとることで失うものばかりではありません。たとえば、ある種の知能は、年とともに高くなるというデータもあります。ホーンとキャッテルという研究によれば、人間の知能は流動性知能結晶性知能に分けられます。

流動性知能は青年期以降に衰えていきますが、結晶性知能は年齢とともに上がっていきます。見た目ではわかりませんが、大人になっても老人になっても、人間は常に発達し続けていると言えます。

中年期

働き盛りは問題が生じる

中年期は働き盛りの労働者で、子どもがいれば親としての役割もあります。また、地域社会でも中心を担うべき存在です。

人生で多くの役割を担う時期ですが、その一方で、内面的に危うさをはらむ時期でもあります。

誕生してから成人するまでは、からだもこころも坂を上るように発達していきます。しかし老年期に入ると、坂を下るように衰えていきます。中年期はちょうど人生の折り返し地点に当たって、様々な問題が生じやすいといえます。

さまざまな変化

まず変化が現れてくるのは、からだです。中年期になると、多くの人が体力に不安を感じるものです。女性では更年期を迎えて、心身ともにバランスを崩しやすいです。

このようなからだの変化から、自分の人生の残り時間が少なくなってきたことにも気づいていきます。また、終身雇用制度や年功序列制度が崩れる中で挫折を経験したり、リストラにあう人もいるかもしれません。さらに、子どもの親離れによって、夫婦関係にも変化が生じてきます。女性は「空の巣症候群」に陥ってしまうことも少なくありません。

こうした様々な問題に直面することで「自分の人生は間違いだったのかもしれない」とアイデンティティが揺らぎ始めます。このアイデンティティの危機を「中年期クライシス」といいます。

自分の人生について考える

アイデンティティが揺らぎ始めると、改めて自分自身のあり方・生き方などを振り返ることになります。そして、人生の目標を再設定したり、目標までの道のりを変更したり、配偶者との関係を再構築したりと、生き方の軌道修正を試みていきます。

軌道修正が上手くいくと、アイデンティティを再構築して、自分に対する自信を取り戻すことができるでしょう。人は誰でも年をとります。時間や体力、能力に限界があることを頭ではわかっていても、若いうちは実感できないものです。

しかし、中年期では自分の能力の限界を突きつけられます。うつ病などこころの病につながることもあります。「若くない自分」や「能力に限界のある自分」を受け入れていき、後半の人生の舵を取っていくことが重要です。

老年期

健康への不安・悩みの増加

60代以上の老年期に入ると、本格的な老いを感じるようになります。

内閣府の調査によると、健康状態を「よい」「まあよい」という人の割合は70代に入ると徐々に減少していき、80歳以上では約4割となっています。一方、健康状態が「よくない」「あまりよくない」と意識している人は年とともに増える傾向にあります。

また、現在の心配事や悩み事として「自分の健康」と挙げた人は75歳以上だと40.6%にも上っています。老化は誰もが避けられないものです。老いを嘆くだけではなく、老いた自分と向き合って前向きに生きることが大切です。

生活の変化もこころに影響を与える

老年期には生活が大きく変化します。定年退職を迎えることで外出頻度は大きく減り、家での生活が中心となります。収入が減り、生活レベルが変わることもあります。また、人間関係も変化します。

とくに家庭や地域社会と関わらず、仕事一筋で生きてきた場合には、退職によって人間関係を一気に失うこともあります。こうした生活の変化はこころにも大きく影響を与えます。生きがいを失い、抑うつ状態になってしまう人も少なくありません。

しかし、人生80年という現代では「退職=人生の引退」ではありません。第2の人生の始まりととらえて、新しい生活や活動に柔軟に適応していくことも大切です。

内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」

確認問題

第6章で学んだことを確認してみましょう。