第5章:子供~大人の間で揺れ動く

からだ

からだの成長がほぼ完成

児童期を過ぎた12、13歳から22、23歳くらいまでを「青年期」と呼んでいます。青年期の前半から、2度目の急成長期に入り、身長・体重が急激に増えてきます。

また、身長・体重などの量的な変化だけではなく、質的にも大きな変化を遂げます。男子はヒゲが生えてきて、やがて精通が起こります。女子は乳房やおしりが大きくなり、初経を迎えます。これを「第2次性徴」といいます。

身体的には成熟して、大人になったと言えます。こうしたからだの変化に伴って、男女とも13~14歳くらいになると、半分以上の子どもが性的な関心を抱くようになります。

男女で異なる変化の受け入れ方

第2次性徴というからだの大きな変化は、自分の意思にかかわらずに、ある日突然にやってきます。「まだ大人になりたくない」と思っていても、その変化を止めることはできず、中には大きな不安を抱く子どもも少なくありません。

小学校5年生~中学校3年生を対象に、第2次性徴の受け入れ方についての調査があります。

男子は淡々と中立的に「大人になる上で当たり前」と肯定的に受け入れている子どもが多いです。一方の女子は、乳房の発達については男子と同様、中立的な受け入れ方が多かった。しかし、陰毛の発毛や初経に関しては「嫌だったけど仕方がない」という否定的な受け入れ方が多いです。

第2次性徴の現れる時期には個人差がありますが、一般的に男子より女子の方が早く、普通12歳頃には初経を迎えます。性的な関心を持つより1~2年も早く、体が成熟してしまいます。

こうした気持ちとからだのズレが「大人のからだ」の受け入れを難しくしている一因だと考えられます。

こころ

からだの変化がこころに影響

第2次性徴を迎えることで、からだは成熟して大人になったといえます。しかし、精神的にはまだまだ大人とは言い切れないアンバランスな状態なのが、青年期の特徴です。

からだが大きく変化することで、自分自身に関心が向きます。自分が独自の存在であると気づくとともに、孤独感・劣等感も生まれてきます。それとともに、社会的な変化も起こってきます。たとえば、親や周囲の大人から「もう大人なんだから自分で決めなさい」と、大人扱いされることも増えてきます。

所属する団体が中学、高校、大学と移り変わることで行動範囲も広がり、大人や社会に対する認識も変化していきます。こうした変化に適応していくためには、非常に多くの精神的エネルギーを使います。

そのため、青年期は精神的に不安定になりやすく、一種の危機的状況にあるといわれています。

思考が発達して考え方が複雑に

青年期のこころの状態には、思考の発達も深く関わっています。ピアジェによると、青年的は形式的操作期に入り、抽象的なことや架空の物事についても、論理的に考えることができるようになります。たとえば、親や教師の意見・指示に対して疑問を持ったり、矛盾点を見つけて反発を抱くようになります。

こうした大人や社会への批判的な態度から、青年期は第2反抗期とも呼ばれています。また、抽象的な思考ができるようになることから、実際には見ることのできない「自分」についても考えるようになっていく。

さらに、自分の将来を見据えて進路を考えたり、好きな異性と上手くいくにはどうすればよいかなどを考えたりします。これは、未来のことを可能性として把握して、仮設を立てて考えるという思考が発達してきたためです。

青年期では、物事を絶対的ではなく、相対的にとらえることもできるようになります。自分と社会との間に矛盾や葛藤を抱きながらも、相対的な思考によって、それらを解決しようとしていきます。

青年期の壁

青年期は自分自身をみつめる

人生に悩みはつきものですが、とくに青年期は多くの悩みを抱えます。第2次性徴を迎えるとともに、自分の容姿への関心が高まって、周囲からどのように見られているかが気になってきます。友達との関係や恋愛の悩みも生まれてきます。また、進学や就職など、人生の節目となる大きな選択について悩むことも多いです。

こうした問題に常に直面して、選択を迫られるのが青年期の特徴です。表面上は明るく楽しくふるまっていても、心理的には常に「悩みの壁」に囲まれていることでしょう。

自分が何者かを考える

青年期には、それまでなかった新たな悩みも生まれてきます。「自分は一体何者なんだろう」「なぜ自分はここに存在するのだろう」など「自分」に関する悩みです。それまでは全く疑問に思わなかった自分という存在やその起源に対して、疑念や違和感が生じてきます。

こうした問題の答えとなるのが「アイデンティティ」です。アメリカの精神分析家エリクソンが提唱したもので、簡単にいうと「自分は他の誰でもない自分」「過去・現在・未来を通して自分は自分だ」という感覚を指します。

エリクソンは、このアイデンティティの確率を、青年期の重要な課題として挙げています。アイデンティティの確率は、どのように生きるかを意味して、就職や結婚、宗教などについての選択に大きな影響を及ぼします。

青年期には、前途のように様々な問題について悩んだり、選択を迫られたりします。また、このようにありたいという「理想自己」と、あるがままの「現実自己」とのギャップに悩むこともあります。そのような経験を積み重ねていくことで、次第にアイデンティティが確立されていきます。

しかし現代では、アイデンティティが確立されないまま、大人になる青年も増え続けています。

親子関係

親への反抗・批判の増加

青年期の親子関係は、それまでと大きく変わってきます。児童期までは両親の価値観に基づいた規律に従ってきました。それが、青年期に入って自我が目覚めてくると、親の規律から離れて自分の規律を獲得していこうとします。

反抗期」という言葉で表されるように、子どもの反抗的・批判的な態度に親は落ち込んだり、悩んだりすることもあります。

心理学者のホリングワースはこの時期を「心理的離乳」と表現しています。親子とともに「依存」の関係から「自律」を目指していく葛藤の時期ともいえます。

新たな親子関係に

親からすると、反抗期がいつやむのかと不安になりますが、反抗期はずっと続くものではありません。子どもはやがて、自分の行動が親との関係に影響していることに気づきます。「あの時はとても心配してくれていたんだ」などと、親の立場で物事を見られるようにもなります。

さらに、個人として認め合える仲間のような関係に至ります。身体的にも心理的にも「依存」した乳幼児期とは違う、独立した個人としての親密な関係を築くことができます。

反抗期は、それまでの親子関係を断ち切るために親子ともに大きな痛みを伴います。しかし、その痛みを分かち合って、乗り越えることで子どもは自立に向かって新たな親子関係を築くことができるといえます。

ただ、反抗期の現れ方は親の態度によっても異なります。一般に権威を重視する親では子どもの反発も強くなりますが、子どもの意思を尊重しようとする親では反発が現れないこともあります。

友人関係

与える影響は親よりも大きい

青年期において、友達の存在は重要な意味を持ちます。親よりも友達の言うことを優先したり、仲間内でのルールの方が、社会的な規範よりも正しいと考えたりします。

心理学者のオーズベルによると、親の周りを回る衛星のような状態から脱して自分の軌道を作る際に、一時的な中心として選ばれるのが友達といいます。

依存と親からの自立という葛藤の中で、友達は情緒の安定をはかる「精神安定剤」のような役割を果たしていると言えます。青年期には「親友」と呼べる友達もできてきます。

ある調査によると、約7割の高校生が「本当の自分を見せることができる」「お互いに悩みを話せる」ことを親友の基準として挙げています。「自己開示」が深くなることで、関係が深まっていきます。

しかし、親友といっても楽しいことばかりではありません。互いに内面をさらけ出すことで、傷つけあうこともあります。そうした友達との様々な関係を通して、青年は自己を形成して成長していきます。

男女関係

交際は高校生頃から

異性への関心や憧れが高まる時期には個人差がありますが、第2次性徴と前後して現れることが多いです。ある調査では、半数以上が小学校時代に初恋を経験していたといいます。

中学生になると、学年が上がるにつれて「好きな異性がいる」と答える割合が増えていきます。ただ中学生のうちは、ずっと同じ相手が好きというわけではなく変化しやすいです。また、青年期は性的にも生理的にも興奮しやすく、こうした興奮を相手への恋愛感情ととらえてしまうことも多いです。

好きな相手がいても、1対1で交際をしている人は少なく「好きな人がいてドキドキする」といった状況を楽しんでいる、恋に恋する状況ともいえます。

関係が続きにくい

高校生くらいになると、1人の相手をある程度想い続けるようになります。これは相手の見た目が好みだとか、物理的な距離が近いとかいう理由ではなく、相手の人格や価値観にひかれるようになるからです。

1対1の交際も始まるようになりますが、最初のうちはなかなか上手くいきません。その原因は、アイデンティティが確立されておらず、自分に自信がないからです。相手からの評価を気にして、互いに褒めてもらうことを求め続けていると、交際は次第に楽しくなくなってしまいます。

そして、相手のことを「嫌いではないけど重く」感じてしまって、交際が終わるというケースが多いです。このような恋愛はいわば「アイデンティティ確率のための恋愛」といえます。

確認問題

第5章で学んだことを確認してみましょう。