第12章:番外編 在宅ワーカーが身に付けたい知識

ここまで、在宅ワークの始め方や在宅ワーカーの心得から始まり、基本的なツールへの理解など、重要事項を学んできました。

第12章では、「番外編:在宅ワーカーが身に付けたい知識」として、これまでの章で学びきれなかった内容を確認します。

トラブルを防ぎ、自分の身を守ったり、健康的に在宅ワークを続けたりするために重要なポイントがまとまっているので、しっかりと理解しておきましょう。

仕事を受ける前に確認したい事項

在宅ワークでトラブルに巻き込まれないようにするには、案件受注前に重要事項を確認しておくことが重要です。確認しておきたい点や理解しておきたい点を学習しましょう。

契約内容の重要点

多くの場合、在宅ワーカーは発注者と直接やりとりをして案件の受注契約を結びます。

契約書を結ばない口頭やメールでのやりとりでも、契約は成立します。ただし、口頭での契約内容は後から確認するのが難しいです。万が一のトラブルに備えて、案件に関する重要事項は文面での記録を残しておきましょう。

業務・報酬形態

在宅ワークの案件を受注する際は、事前に業務・報酬形態を確認しておきましょう。在宅ワークに多い主な種類として、以下のようなものがあります。

成果報酬型・固定報酬型

在宅ワーカーが案件の成果物を納品し、発注者側の検収が完了すれば報酬が発生する形態です。成果物を作成するのにかかった時間にかかわらず、あらかじめ決めていた報酬額が支払われます。

WebライティングやWebデザインなど、在宅ワークの案件に多い仕事との相性が良い形態です。そのため、多くの在宅ワーク案件はこの形態を採用しています。

時間単価型

ワーカーが働いた時間に対して報酬が支払われる形態です。この形態の場合は、報酬額として時給(時間当たりの報酬額)が設定されています。

在宅秘書や在宅塾講師などで取り入れられていることが多い形態です。

契約の前に、働いた時間をどのように計測するのかを確認しておきましょう。

納期・業務内容・報酬額・報酬支払い方法

契約時には、納期・業務内容・報酬額・報酬支払い方法についても明確にしておく必要があります。

あいまいな点があれば発注者にしっかりと確認しましょう。「なんとなく聞きにくいな」とあいまいなままにしておくと、案件を遂行できなかったり、報酬未払いトラブルにつながったりします。

そもそも良心的・常識的な発注者であれば、これらの重要事項を明確化することに不満は感じないはずです。もし、在宅ワーカー側がこれらを尋ねたときに、話を濁したり契約を渋ったりするようであれば、その発注者とは取引しない方が良いでしょう。

重要な4点について、それぞれ特に確認したいのは以下です。

納期

「いつまでに」「何を」提出するのかが明確になっているか確認しましょう。

納期として設定されている期日が、「初回提出日」なのか「検収完了日」なのかも重要です。期日が「検収完了日」なのであれば、修正があっても間に合うように早めの提出が必要になります。

業務内容

「自分が行う作業」について、明確になっているか確認しましょう。

特に、イラスト制作の場合には、イラストの差分は何枚必要なのか、どこまでが報酬に含まれているのかを明確にしておくとトラブルになりにくいです。動画制作の場合なども、素材は誰が用意するのかなどを確認しておきましょう。

報酬額

報酬額は業務内容と結び付けて確認しておくのが重要です。「どこまでの作業」で「いくらの報酬なのか」が明確になっているか確認しましょう。

報酬支払方法

報酬の支払いについて、「どうやって(どこに)」「いつまでに」支払われるかが明確になっているか確認しましょう。

クラウドソーシングサービスを利用している場合は、そのサービスを経由して支払うことになります。クラウドソーシングサービスで受注した案件にもかかわらず、経由せずに報酬を受け取るとサービスの契約違反になる可能性が高いです。

その点も含め確認しておきましょう。

発注者の実績

初めて取引をする発注者については、信用できる人物かどうか事前に確認しておくのがおすすめです。

取引先の会社名がわかっているのであれば、検索エンジンで検索するだけでも過去に大きなトラブルがないか確認できます。クラウドソーシングサービスでは、利用者の発注実績や案件完遂率などが公開されている場合があるので、そちらも参考にしましょう。

すべてのトラブルを完全に把握することは難しいですが、リスクを軽減する効果はあります。

契約書は作成するべき?

契約書を作成するべきかどうかという観点で考えると、作成するべきです。作成できるのであればそうしましょう。

しかし、在宅ワーク、特に副業の場合では、案件受注時に契約書を作成しないケースも多いです。その場合は、必ず文面でのやりとりを残すようにしておきましょう。

案件についての話がまとまったら、「納期は〇月×日、報酬額は~~~ということでよろしいでしょうか?」などとメッセージをしておくなどして明確化するのがおすすめです。

在宅ワーカーを支援するサービス

働き方の多様化に伴って、在宅ワーカーを支援するサービスにも注目が集まっています。

副業として在宅ワークを行っている場合は利用しにくいものも多いですが、存在は把握しておきましょう。

保険

「フリーランスとして在宅ワークを行う場合にも加入できる保険」が存在します。在宅ワークを長く続けて、健康面での不安を減らすためにも、余裕があれば加入しておきましょう。

特に、在宅ワーカー向けに用意されている保険は、収入が不安定だったり、企業に雇用されていなかったりしても加入しやすいものが多いです。

在宅ワーカー向けの保険は、「フリーランス向け」でキーワード検索すると見つかります。クラウドソーシングサービスが運営しているものもあるので、そちらもあわせて確認するといいでしょう。

相談窓口

在宅ワーカー・テレワーカー向けの相談窓口もあります。窓口によって、相談できる内容は異なります。こうした窓口があると知っておくだけでも、トラブルなどへの不安を軽減できます。

自治体が運営している場合も多いので、自分の住んでいる地域にあるかどうか確認してみるといいでしょう。以下は、厚生労働省が設置している「自営型テレワーク」に関する相談窓口です。

自営型テレワークに関する相談窓口

また、トラブルに巻き込まれてしまった際に相談できる「フリーランス・トラブル110番」という窓口もあります。厚生労働省の委託事業です。

押さえておきたい法律

トラブルに巻き込まれたり、知らないうちに自分が法律を破ったりしないために、法律に関する知識は重要です。

ここでは、在宅副業ワーカーと特に関係が深く、実際のトラブルに繋がりやすい法律について学びましょう。どれも確実に押さえておきたい点です。

契約関連

在宅ワーカーは、案件受注の際に発注者と契約を交わします。契約関連で押さえておかなければならない法律には、以下のようなものがあります。

民法

民法では、「請負契約」について定められています。請負契約では、「成果物の完成を前提として仕事を請け負った場合、請け負った側はその仕事を完遂させなければならない」ことが定められています。

成果物の品質に問題がある場合、発注者側は修正依頼などを出すことができるという点についても言及されています。

つまり、簡単にいえば、ワーカー側の責任に言及した法律です。

「できるかわからないけれどとりあえず受けてみよう!ダメだったらやめればいいや」という考えで案件を受注するのはやめましょう。また、完成した成果物を納品する契約の場合は、修正までしっかり行いましょう

下請法

下請法は、下請け業者の利益を守ることを目的として定められています。在宅ワーカーの多くは、発注者の業務を下請けすることになるので、関係の深い法律です。

下請法では、親事業者(在宅ワークの発注者)に対して、下請け業者(ワーカー)から納品物を受け取ってから60日以内で報酬支払期日を定めることや、支払いの遅延が起こった場合に利息を支払うことなどが言語化されています。

在宅ワーカーにとっては、トラブルが起こったときに身を助けるかもしれない法律なので把握しておきましょう。

著作権関連

在宅ワーカーは自分の裁量で行動する場面が多いため、自分が知らないうちに法律を破ってしまうリスクも高いです。防ぐために、法律についての知識を持っておく必要があります。

そうしたリスクの中でも、著作権は難しい問題です。

著作権法

著作権に関する事柄は、主に著作権法という法律で定められています。

この法律によれば、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(著作権法 第一章第一節第二条二)」と定義されます。

イラスト・動画制作やWebデザインなど、在宅ワーカーが受注する多くの案件・成果物は著作物に関係します。

例えばイラスト制作では、「トレス」問題が度々話題になります。これは、トレス行為が著作権を侵害する可能性があるためです。

また、Webライティングでも、文章そのものが他者の著作権を侵害していないか、記事に使用する画像などが著作権上問題がないかをしっかり確認する必要があります。

ただし、著作権の定義や効力が及ぶ範囲はかなり複雑です。

在宅ワークを行うにあたっては、最低限以下の点に留意しましょう。

  • 他者や作品の真似をせずにオリジナルの成果物を作る。(大前提です)
  • 身の回りのさまざまなものは誰かの著作物であると心得る。
  • 何かを引用、参考にする場合は、その利用規約を確認したり許可を取ったりする。
  • 「これって真似していることになるかな?」と思ったらその都度法律や規約を確認する。

「ここではこれがOKになっているから自分がやろうとしていることもOKだろう」という判断は危険です。なぜOKという扱いになっているのか、根拠を必ず確認して、自分の状況と照らし合わせましょう。

広告事業関連

在宅ワーカーが知らず知らずのうちに法律違反してしまいやすいポイントとして、広告(PR)に関するものがあります。「ステマ(ステルスマーケティング)」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。

PR案件は報酬額が高めに設定されているものや手軽な業務内容のものが多い一方で、まれに法的にグレーなものもあります。受注前に法律違反になる可能性がないか確認しましょう。

景品表示法

景品表示法で定められている事柄のうち、在宅ワーカーが特に意識したいのは「不当な表示を規制する表示」に関する項目です。この項目では、優良誤認表示・有利誤認表示・その他誤認させる恐れの表示の3点が禁止されています。

このうちの、優良誤認表示について、消費者庁は以下のように示しています。

「具体的には、商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為が優良誤認表示に該当します。

引用:消費者庁HP「優良誤認とは

実際には、「広告であると明言しない口コミ」なども、優良誤認に当てはまると考えられています。

PR案件がすべて法律に違反しているわけではなく、PRであると消費者が理解しにくい状態で口コミ・広告すること(いわゆるステマ行為)が問題です。