第2章:代表的な心理療法

カウンセリングの場で活用される心理療法は数多く存在します。
いずれも様々な文化的・社会的な背景をベースに生まれた理論なので、その多くを知っていくことで実践に活かせる幅が広がってきます。

しかし、それらを全て完璧にマスターする必要はなく、自分の属する、または共感できる理論以外を否定すべきものでもないです。
ほとんどの理論では、クライアント自信が自分で解決していくことが最善です。

カウンセラーの立場は、それを共に考えていきながら援助することです。
これから、実戦で使用されている様々な心理療法から代表的なものをいくつか紹介していきます。

①精神分析療法

精神分析療法とは、フロイトによって創始された治療法です。

また古典的精神分析とも呼ばれており、カウンセリングの世界に大きな影響を与えています。

その基盤には、もともと本能の塊である人間が、徐々に理性的な存在になっていくその過程を発達という考えがあります。

例えば、男の子の性格は、幼少期に父親をライバルとみなして母親を奪い合う経験をして形成されると考えられているのもそのひとつです。
これは「エディプス・コンプレックス」とも呼ばれています。

このように、幼少期の経験がもととなって心の無意識の部分が形成されます。
精神分析療法では、クライアントの無意識の領域に抑圧された本能的な部分を解放することによって意識化し、正常な精神活動に転換することが目的です。

②ゲシュタルト療法

ゲシュタルトとは「全体・統合・形態」を意味するドイツ語であり、クライアントを統合されて成熟した全体像ととらえる療法です。

心理学者であって、精神科医でもあるフレデリック・パールズが提唱した理論がもとになっており、行動主義に対するもうひとつの勢力である、ゲシュタルト心理学をカウンセリングとして取り入れたものです。

人間は様々な要素を足し算して集めたものではないとして、知覚や認知も部分の総体ではなく、全体としてのまとまりを作っていると考えています。

ゲシュタルト療法では、役割演技の技法が用いられており、クライアント自信の様々な部分、不満を持つ自分、それを非難する自分などを演じます。
そうしていくうちに、クライアントは思いがけない自分に気づいて、豊かな人格像に気づくことができます。

ゲシュタルト療法の技法一例

  • ホットシート:椅子を用いて、その上にイメージする他者や自分を座らせて対話する技法。
  • 未完の行為:クライアントにやりたくてもやれなかったことをしてもらいます。例えば、両親のいない人に「お父さん・お母さん」と呼ばせるなど。
  • ドリーム・ワーク:夢の中の登場人物になりきって、再現してその気持ちを語る。
  • 発言内容と正反対のことを言う:例えば「私は気が小さい」というクライアントに対して「私は気が大きい」と何回も言わせることで自分の反動形成に気づかせます。
  • できないことをやる:人前で話せないというクライアントに「今からあなたは人前でも平気でおしゃべりできる人間を演じてください」と役割演技をさせます。
  • トップ&アンダー・ドッグ:ねばらない自分と、〇〇したい自分を対話させる。

③行動療法

行動療法は、明確な創設者はいませんが、心理学者であるアイゼンクが名称を広めたと言われています。
また「ウォルビ」「スキナー」「バンデューラ」「ベック」なども有名な行動心理学者です。

背景にある学習理論では、人間は生まれた時は白紙の状態で、成長過程で色々と色づけされていくと考えられています。

行動療法では、クライアントの心理状態に働きをかけるよりも、行動の変容を目的とした治療であり、心理面にほとんど注目しないという点で、心理療法の中では特殊であると言えるでしょう。

行動療法の技法一例

系統的脱感作法

この技法は、不安や恐怖といった感情は誤った学習の結果であるととらえていて、それらに拮抗する反応を新しく段階的に学習させることで、ネガティブな感情を消去するのを目的とする技法です。

フラッディング法

クライアントが恐怖や不安を感じる場面にいきなり直面させて、実際には何も起こらないことを理解させる技法。

トークンエコノミー法

トークンとは、代用紙幣のことを言います。目的行動に対して適切な反応をクライアントがした際、報酬としてトークンを与えて望ましい行動が起きる頻度を上げる技法です。

バイオフィードバック

クライアント「心拍数・脳は・体温・血圧」などの生理的な活動を、装置を用いて測定して、その数値をクライアントにフィードバックすることによって、自分でコントロールできるようになることを目的とする技法です。心身症やストレスの緩和等に有効とされています。

④論理療法

論理療法とは、アメリカのアルバート・エリスによって提唱された心理療法です。
人には様々な思い込みがありますが、エリスはこの思い込みや信念を「ビリーフ」と呼んでいます。

もし、クライアントが生きづらさを感じる結果になるのであれば、無意識のうちにとらわれているこの信念体系そのものに問題があると、論理療法では考えられています。
よって、論理療法ではクライアントが抱いている不合理なビリーフを、論理によって合理的なビリーフへ変えていくことを目的としています。

心理カウンセラーは、クライアントを縛りつけている不合理なビリーフを見つけて反論し、論理的に説得をすることを仕事としています。
例えば、人前でのスピーチに失敗しても「失敗してもすべてがダメなわけではない(プラスの感情)」と認識できるように、ビリーフの修正をしていきます。

エリスの理論は、クライアントにとっての「出来事」それをとらえる「信念体系」その「結果」として抱く感情、誤ったビリーフの「論駁(ろんばく)」正しいビリーフをクライアントが導き出せるようになる「効果」のそれぞれの頭文字をとって「ABCDE理論」と呼んでいます。

⑤家族療法

家族療法とは、システム論を基礎としている新しい理論的枠組みの療法であり、家族を一つのまとまりを持ったシステムとみなし、個人ではなく家族システムそのものを対象としています。

この家族システムが機能不全に陥っているために、最も感受性の強いメンバーの問題行動や症状が起きていると考えています。

例えば子供が不登校になった場合に、従来の伝統的な個人精神療法ならば、子供個人を対象にして関わっていきますが、家族療法では家族システムそのものに関わっていきます。

家族の人間関係そのものに問題がある場合もあるので、家族の各メンバー同士の相互作用に焦点をあてていきます。

この不登校になっている子供のように、症状・問題を抱えた家族のメンバーはIP(Identified Patient:患者の役割を担う人)と呼ばれています。
IPが歪んだ家族システムの犠牲になっているおかげで、家族内の均衡が保たれているとみなしています。

IPの問題行動や症状は過去に起因するという直接的な因果関係ではなく、様々な因果関係が連鎖的につながっているという、円環的な因果関係からIPの問題行動などをとらえます。
よって、過去よりも現在、内容よりもプロセスを重視していくことになります。

⑥来談者中心療法

来談者中心療法とは、臨床心理学者ロジャーズの理論です。
人間は誰でも豊かに成長する資質を持っており、日々の生活はその成長に向かうものとする考えです。

来談者中心療法は、段階的に発展していった理論なので、クライアントが成長する力を重要視した初期の頃は「非指示的療法」と呼ばれていたこともありました。

ロジャーズはカウンセラーに必要な態度は以下の3つであるとしています。

上記3つの条件について、詳しく見ていきましょう。

自己一致

自己一致は、そうあるべき自分である「自己概念」と、あるがままの自分の「自己経験」が一致している状態のことを指しており、健全なパーソナリティの状態であるとされています。

クライアントを健全なパーソナリティの状態にするためには、まずは心理カウンセラー自身が健全な状態でいることが重要です。

無条件の肯定的配慮

無条件の肯定的配慮は、クライアントの良い面・悪い面を無条件に受容して、ひとりの独立した人間として認めていくことをいいます。
クライアント自身が自分を認められないことがあるからです。

共感的理解

共感的理解は、クライアントの主観的な世界をカウンセラーがあたかも自分が感じているかのように感じることです。

そのように立ち回りながら、完全には巻き込まれないように感情の反映をすることで、クライアントが自分自身の感情の動きを理解できるように促していくことを目的としています。

上記の3つの条件に加えて「傾聴」することを重要視しました。
ひたすら傾聴していくことで、クライアントとの信頼関係が作られていくので、クライアントは自分の内的な世界を話し始めると考えています。

確認問題

第2章で学んだことを確認してみましょう。