第7章:メンタルトレーニング実践編②内なる自分とのコミュニケーション

多角的な視野を磨く

今回のメンタルトレーニングは「自分と向き合う」ことです。

人生を自分が満足できる状況で生き抜くためには、時代の流れを読み、流れに乗りながら時代に合った考え方を身につける必要があります。

時代に合った考え方を身につけることは、決して周りに合わせて生きることではありません。

時代の流れを読みながら「いかに自分を活かしていくか」という「自分の居場所」を確保することです。

今のあなたの仕事は、20年後も存在しているでしょうか?

時代を見ずに、目の前の仕事だけに邁進していては、時代に取り残されてしまうかもしれません。

時代の流れを見るには、多角的な視野を磨く必要があります。

多角的な視野とは、

  • 自分の手の届く範囲のことを細かく詳しく観察する(例:同僚や友人はどのような働き方をしているか)
  • 時代はどのように変化しているか、大まかに把握する(例:株価の動きは? 社会の変化は? 会社の方針は変わったか)
  • 世界的な変化は起こっているか、情報収集する(例:海外の市場の動きは? 外国と日本との関係は?)

といったさまざまな視点から物事を観察することを指します。

もし身近で同僚や友人が働き方を変えたり、仕事を変えたりしているのなら、あなた自身の働き方を見返してみましょう。

すぐに行動を起こす必要はありません。まず見返し、自分を客観的に観察します。つぎに、社会はどのように変化しているかを大まかに把握しましょう。

社会的に働き方が変わっているのなら

自分にとってポジティブな働き方は何か、長く働ける仕事は何か

を深く考える機会にできます。

さらに世界的な変化にも目を向ける必要があるのです。

インターネットさえつながっていれば、世界中どこにいても仕事はできます。インターネットを介したサービスを提供すれば、お客さんにもメリットがあるでしょう。

一方で人とのつながりが希薄になる可能性があるからこそ「対面サービス」の価値が高まるとも考えられます。

どちらかに絞る必要はなく、どのように時代が変化しても流れに乗っていけるよう、柔軟なとらえ方をしなくてはいけないのです。

物事を考えるとき

  • 「身近なものに関する視点だけになっていないか」
  • 「視野を広く大きく持てているか」

を常に意識することが、内なる自分とのコミュニケーションであり、時代に乗り遅れないためのメンタルトレーニングなのです。

多角的な視野の活かし方

自分のことを

「リーダーか、マネージャーか?」

と考えたことがありますか?

複数の人をまとめる存在という点では共通するリーダーとマネージャーという仕事の役割は、実は大きく異なるものです。

そしてメンタルトレーニングにおける自分との内なるコミュニケ―ションにおいて、

「自分はリーダーか、マネージャーか?」

と自問自答することは「集団の中の自分の適正な立ち位置」を把握するために必要なことであり「能力を発揮できる自分の役割」を集団の中で確保するために、非常に重要だといえます。

社会の中に「替えの効かない自分」を確立することは、健全な人生を生き抜くために必要不可欠だからです。

  • 「リーダーなんて恐れ多い」
  • 「管理職にはなりたくない」

といった消極的な姿勢は、メンタルトレーニングに足を踏み入れた時点で、いったん脇に置いてください。

今回のメンタルトレーニングにおける選択肢は

自分はリーダーか、マネージャーか?

の二択だけです。

多角的な視野を磨いていくうち、どの視点からみたときが自分のスキルを最大限発揮できるかがわかってきます。

身近な人の変化に気づきやすいのか? 少し離れた社会の変化に敏感なのか、世界情勢に興味を惹かれるのか。

もし身近な人の変化に気づきやすかったり、社会の変化に敏感だったりする場合は、マネージャーに向いている、といえます。

あなたが世界情勢の変化にもっとも興味を惹かれるなら、リーダー向きです。リーダーは、チーム全体をひとつの目的に向かって動かさなくてはいけません。

遠い目的を見定め、大局的な視点から集団を率いるのが仕事です。

一方マネージャーは、リーダーが決めた目的を効率よく達成するために、チームのメンバーのスキルを適材適所となるよう、振り分ける役割を担います。

リーダーとマネージャーでは、必要とされる視野、視点が異なるのです。

あなたはどの視点からが、自分のスキルを発揮しやすいでしょうか?

メンタルトレーニングにおいては、苦手を克服するよりも得意を伸ばすことに重点を置きます。得意を伸ばすほうが、メンタルに負担がかからない上にポジティブに行動できるからです。

どんな組織においても、まずはメンバーで参加するでしょう。常に指示をもらう立場でい続けることを受け入れていては、人間として成長することは望めません。

メンバーである期間は、多角的な視野を実践トレーニングできる期間でもあります。

リーダーになるにしても、マネージャーになるにしても基本は「自分が得意なほう」を選び、そのスキルを伸ばしていきましょう。

共感力と謙虚さ

優秀な経営者、とされる人は謙虚な方が少なくありません。それはひとりでは何事もなしえない、と自覚されているからだと考えられます。

常に他者に敬意を払い、感謝の念を持ち、相手を立てて接することで、相手の協力が得られやすいことを知っているのです。

これは心理学でいうところの「共感力」ともいえます。共感力とは、人の気持ちを汲んで寄り添う気持ちができる力のことです。

正論だけでは人は動きませんし、動かすこともできませんが、相手の気持ちに共感し寄り添うことで大きく状況が変わります。

例えば相手が楽しい気持ちでいる場合に、自分も楽しい気持ちになれるかどうかということです。不遜な態度をとり、威張っている人と仕事をしたい、と感じる人は少ないでしょう。

では「謙虚さ(共感力)」を身につけるには、どのようなメンタルトレーニングをすればいいのでしょうか。

まずは「誰に対しても感謝の気持ちを持つ」ようにしてください。

たとえばお店に行くとします。

お金を払って対価となるモノやサービスを受け取る以上、店員さんとお客の立場は対等なはずです。

店員さんに「お客様は神様です」といった上下関係を強要するのではなく「ありがとうございます」と、ひと言お礼を添えましょう。

相手を見て自分の態度を変えないことも「謙虚さ」を身につけるうえでは必要なことです。

誰に対しても同じ「感謝の気持ち」で接することができるようになったら、次は「相手の立場になって考え」てみます。

防衛機制も必要

防衛機制とは、危険や困難に直面した際にメンタルが受け入れがたい苦痛や受け入れがたい状況にさらされた場合、受けた苦痛による不安や体験を減弱させるために無意識に作用する心理的なメカニズムです。

防衛機制にはいくつかの段階があります。

レベル1 精神病的防衛

  • 否認(Denial)- 不安や苦痛を生み出すようなある出来事から目をそらし、認めないこと
  • 歪曲(Distortion)- 内面ニーズを満たすよう外部の現実を再構成する
  • 投影(Projection)- 自分の内面にある受け入れがたい感情や欲動を、自分のものとして認めず、外部に写し出すこと。これは明らかな妄想(迫害されるという被害妄想)の形を取る(精神病性妄想)

レベル2 未熟な防衛

  • 退行(Regression)- 耐え難い事態に直面したとき、現在の自分より幼い時期の発達段階に戻ること
  • 理想化 (idealization) – 自己と対象が「分裂」している状態で、分裂させた一方を過度に誇大視して「理想化」すること
  • 取り入れ (intake)- 自分に周囲のものを取り入れることで心の安定をはかり、自分を守ること(例:出張中に妻の写真を大切に持ち歩く)

レベル3 神経症的防衛

  • 置き換え(Displacement) – 欲求を本来のものとは別の対象に置き換えることで充足すること。
  • 知性化(Intellectualization)- 感情を生々しく表現する恐怖から、頭が良さそうな抽象的・回りくどい振る舞いや表現をすること(例:君が好きだ、と言えずにあなたのことを表現した詩を書きました、といって渡す)
  • 合理化(Rationalization) – 満たされなかった欲求に対して、理論化して考えることにより自分を納得させること。イソップ寓話『すっぱい葡萄』が例として有名。狐は木になる葡萄を取ろうとするが、上の葡萄が届かないため、「届かない位置にあるのはすっぱい葡萄」だと口実をつける

レベル4 成熟した防衛

  • 同一視(Identification) – 自分にない名声や権威に自分を近づけることによって自分を高めようとすること。他者の状況などを自分のことのように思い、感じ考え行動すること。この同一視は他人から他人へ伝染する。
  • 昇華(Sublimation)- 反社会的な欲求や感情を、社会に文化的に還元出来得るような価値ある行動へと置き換えること。例えば、性的欲求を詩や小説に表現すること。
  • 抑制(Suppression)- 意識的な衝動を、意識的もしくはほぼ意識的に延期する。無意識に抑え込むことは「抑圧」と呼ぶ。

たとえば仕事相手が不機嫌だったときやミスをしたとき、目の前の現象だけで判断し、相手を責めるのではなく

  • 「何かイライラすることがあって、あんな態度なのだな」(レベル3 置き換え)
  • 「誰にでもミスすることはある」(レベル4 同一視)

と考えるのです。

相手のストレスを受け止めろ、という話ではありません。

相手に100%の成果を求めない、ということです。

誰でもイライラすることはあるでしょうし、人間だからミスを犯すでしょう。

事情も知らずに目の前の結果だけを見て相手の落ち度を責めることは、絶対にやってはいけないことです。

あなた自身がもし完璧な人間で、絶対にミスをしないとしても、相手の落ち度を責めない

この行動ができる人こそ「公平さ」と「謙虚さ」を身につけた、尊敬できる人物といえます。

相手のミスを責めない一方で、自分は100%の成果を出す努力を怠ってはいけません。

どんな時でも相手を立てる余裕を持ち、自分は研鑽を怠らないことが「謙虚さ」を身につけるためのメンタルトレーニングなのです。

確認問題

では、第7章で学んだことを確認してみましょう。