次のメンタルトレーニングは、いよいよ実践です。
これまでのメンタルトレーニングが自分の脳内でシミュレーションすることがある程度可能であったのに対し、ここからは「他者ありき」のトレーニングになっていきます。
できる範囲で実践して、経験を積んでいきましょう。
多様性を知る
今回のメンタルトレーニングは「多様性とは何か」を知ることです。
他者とコミュニケーションをとるうえで前提となるのは「他者は自分とは異なる存在である」と認識することです。
- 「なぜあの人はあんな考え方をするんだろう」
- 「なぜあの人は……」
と他者の言動にいちいち疑問を持っていないでしょうか。
家族といえど自分ではない人が、自分と異なる考え方をすることは、太陽が東から昇るのと同じくらい、当たり前のことなのです。
「他者は自分とは違うのだ」
と違いを認識するだけで他社とのコミュニケーションは、楽になります。
この「違い」が集まることが多様性であり、多様性とはまさに人間関係を表しているのです。
メンタルトレーニングを行ううえで重要なことは、多様性を知ったうえで
- 「自分と異なること」
- 「自分が知らないもの」
を拒絶せず、相手のありのままを認め、他者との距離を自分でコントロールすることといえます。
社会性の強化
自分と他者との距離をコントロールする方法を学んだあとは、さらに高度なトレーニングを行います。
他者と深く関わるきっかけになる「会話」でのメンタルトレーニングです。
会話は少し難しいコミュニケーションの手段といえます。
なぜなら「一度口から出た言葉は取り消せない」からです。
怖がる必要はなく、一度口から出た言葉を取り消せないのは、誰でも同じだからです。
お互い同じリスクを負っているわけですから、堂々と会話をしましょう。
会話のコミュニケーションは、いくつかの種類にわけられます。
- 目的のない単なるコミュニケーション(挨拶、天気や経済の話など)
- ある目的をもって相手の意見と自分の意見をすり合わせていくコミュニケーション(目的を達成するための方法がお互い異なる場合)
- 言葉で「戦う」討論(ビジネスにおける取引、駆け引きなど)
です。
目的のないコミュニケーションは、最もメンタル負荷の軽いコミュニケーションです。
あまり他者とのコミュニケーションに慣れていない場合は、コミュニケーションのトレーニングとして、負荷の低い目的のないコミュニケーションで数をこなしましょう。
そのときにチェックする大きなポイントは
- 自分が意図したとおりの発言ができたか
- 相手を不快にさせない発言だったか
の2点です。
チェックするとき優位になるのは「相手を不快にさせない発言だったか」です。
コミュニケーションは相手ありきなので、たとえあなたが「あの発言はすべきではなかった」と感じたとしても、相手が不快に感じていなければ及第点といえます。
ただし同じ発言をしても「不快と受け止めない人」もいれば「不快と感じる人」もいることは認識しておきましょう。
相手の意見と自分の意見をすり合わせていくコミュニケーションの重要なポイントは「勝たせず負けない」コミュニケーションを心がけることです。
他者と同じ目的を達成するためのコミュニケーションですから、相手を言い負かすことは目的ではありません。
喧々諤々(けんけんがくがく)の議論のなかで、お互いの腹の内をときにはさらけ出しながら自分の考えを伝え、相手の言い分の聞き「どうすればお互いが納得できる結果を生み出せるか」を探ります。
このコミュニケーションの場合、両者の目的が一致しているため、議論が白熱したとしてもネガティブな感情が生まれにくい特徴があります。
注意しなければいけないのは
- 「相手の言い分を聞かない」
- 「自分の主張ばかりを通そうとする」
2点です。
裏を返せば「相手の言い分に、素直に耳を傾ける」ことが最も重要といえます。まずは相手に洗いざらい、腹の底が空っぽになるまで話してもらいましょう。
そこから自分の意見が入る余地を見つけ、少しずつ寄り添ってもらえるよう、具体的な提案をするのです。
達成したい目的は同じであるわけですから「どちらが正解」や「どちらが勝った」という論点はそもそも必要ありません。
自分の意見と異なる点があったところで「間違い」や「負け」ではないのです。多様性を受け入れ認めてこそ、実りある「勝たせず、負けない」コミュニケーションが可能となるのです。
言葉で「戦う」討論の場合は、相手の言い分ばかりを聞くわけにはいきません。「戦い」だからといって、相手を再起不能になるほど(議論で)叩きのめしてよいわけでもないのです。
議論を戦わせるときの重要なポイントは
- 「相手に納得してもらう提案をすること」
- 「自分の意見を曲げない」
相手の言い分ばかりを聞いていては、自分が損するかもしれません。
「ここまでは譲れる、これ以上は無理」
というボーダーラインを決め、そのラインを相手に納得してもらう必要があります。もしかしたら相手も無茶な要求をしていることをわかったうえで、議論を挑んでいるかもしれません。
しかし「戦う討論」の場合、相手が腹を割って話してくれることは、ほぼないでしょう。
相手の言葉が本音なのか、ハッタリなのかを議論のなかで探る必要があります。
相手の本音を探るには、まず自分が譲れないラインを明示する必要があります。こちらの妥協点を先に明示することで、破談か妥協かを相手が選ぶことになります。
一見、議論の主導権が相手にあるように見えますが「譲らないライン」を主張しているのは自分なので、主導権が渡ることはないのです。
こちらからは「譲らないライン」を主張したうえで、自分も生かし相手も生きる道のある提案をすれば「戦う討論」に負けることはないでしょう。
くれぐれも、議論で相手を再起不能にしてはいけません。
相手にも生きる道を提案することで、きっとあなたの良きパートナーとなってくれるでしょう。
「聞き上手」になる
コミュニケーションは「相手ありき」で成り立つものです。相手のことを考えないコミュニケーションは、単なる耳障りな独り言になってしまいます。
次のメンタルトレーニングは「相手の情報を引き出す」です。
「相手の情報を引き出す」方法のひとつに「聞き手に回る」やり方があります。
「聞き手に回る」には、まず相手の状態をよく観察することが必要です。
- 悩み事を抱えているように見えないか
- いつも通り機嫌がよいか
など「人から感じるオーラのようなもの」を感じ取りましょう。
話し相手を探している人は「話したい。聞いてほしい」というオーラを出しているものです。
その「話したい」オーラを敏感に感じ取るトレーニングをまず、やってみましょう。
オーラを感じるだけなので、言葉のコミュニケーションまで踏み込むことがなく、メンタルにも負荷をかけることなくトレーニングできます。
「話したい」オーラを感じ取ったら、その人が誰にどのようなきっかけで話しかけているか、そっと観察してみてください。
相手の情報を引き出すには「この人は私の話を聞いてくれる人だ」と思ってもらわなくてはいけません。
相手を選ばず常に「相手を受け入れている」ことを、周囲に理解してもらうことも必要になります。
そのためには、
- 常にメンタルを一定に保つこと
- 聞き出した他者の情報を、第三者に許可なく漏らさないこと
が求められます。
気分屋で、TPOを考えず感情を表に出す人に「自分の話を聞いてもらいたい」と考える人はいません。また同様にいわゆる「スピーカー」と呼ばれる、噂話が好きで他者のプライベートやゴシップを話して回る人に、自分の情報を漏らす人はいないでしょう。
「良い聞き役」となり相手の情報を預けてもらうには、相手の「話したい」オーラを感じられるようになることとともに「口の堅い、信用できる人物である」と認知してもらわなくてはいけないのです。
ただしあなたを「ネガティブな感情のゴミ箱」にする人の話を聞く必要はありません。
ネガティブな感情は伝染しやすく、話を聞いているうちに負の感情に支配されてしまいます。
これではポジティブな情報は手に入りませんし、メンタルに負荷がかかってしまいます。
ネガティブな話をしたい人を遠ざけるには、他者のオーラを感じ取るトレーニングが必要です。
「愚痴を聞いてもらいたい」人のオーラを察知し、その人からは物理的にも心理的にも距離をとることで、あなたのメンタルを守りましょう。
確認問題
では、第6章で学んだことを確認してみましょう。