第2章:誕生からの不思議な能力

視覚

赤ちゃんの目は近視

イヌ・ネコの赤ちゃんは、生後間もない頃は目を閉じたままで外界を見ることはできません。しかし人間の赤ちゃんの場合には、生後4週間以下の新生児でも、0.02~0.03程度の視力があることが分かっています。

大人に比べるとかなりの近視といえる状態ですが、これは赤ちゃんの脳の発達が未熟であり、目から得た情報を的確に処理することができないからです。ピントを調整する能力もないので、自分の目の前の20~30cm程の距離にピントが固定されています。

これは、母親に抱かれているときに、ちょうど顔が見える距離です。それ以上離れているものはぼんやりとしか見えません。また、立体化ができないので、赤ちゃんが見ているのは平面的な世界です。脳の発達にしたがって、次第にものや空間を立体的に認知できるようになっていきます。

好きなものはじっと見つめる

新生児の視力は弱いですが、色や形を区別することはできます。好きなもの・興味のあるものほど、じっと見つめる傾向があります。これを「選好注視」といいます。

この傾向を利用して、アメリカの心理学者ファンツは、赤ちゃんがどのような図形を好むのかを調べました。実験結果は、赤ちゃんは単純なものより複雑なものを好んで、とくに人の顔の図を見つめる時間が最も長かったといいます。

赤ちゃんでも、すでに好みや興味があり、しかもそれが「人間」に向かっていることは、非常に興味深いことです。別の実験では、新生児は図形の方向性を区別できることが確かめられていて、さらに生後4ヶ月くらいになると、図形の左右対称性もわかるようになります。

聴覚

胎内で音を聞いている

赤ちゃんの視覚は徐々に発達しますが、聴覚はどうでしょうか。

脳の聴覚をつかさどる部位は、妊娠約30週でほぼ完成していて、比較的早い段階から音を聞く能力があると考えられています。おなかの中では、母親の心臓の音や胃腸が動く音、血液の流れる音などが、絶えず聞こえているでしょう。

妊娠36週頃に大きな音を立てると、胎児の心拍数が上がったり、からだを活発に動かしたりします。

生後間もない赤ちゃんがぐずっているときに、子守唄とメトロノームの音、心音を聞かせる実験では、心音を聞かせたときが一番落ち着いたとの報告もある。おなかの中で長い間、親しんでいた音だからかもしれません。

高くゆっくりな声が聞きやすい

赤ちゃんは、音に対して上記画像のように様々な反応を示します。

このような反応から赤ちゃんの好きな音を探っていくと、一番好きなのは人の声です。とくに、男性の低い声よりも、音域の高い女性の声を好みます。

さらに話し方にも好みがあって、話すテンポがゆっくりで抑揚のある話し方に強く反応します。赤ちゃんに話しかけるときは、普段早口の人でも、ゆっくりと抑揚を強めた、赤ちゃんことばで話しかけることが多いです。

知らず知らずのうちに、赤ちゃんの好きな話し方をしています。

母親の声がわかる

赤ちゃんは、男性よりも女性、そして同じ女性でも母親の声を好みます。生後たった1日の赤ちゃんでも、お母さんの声に強く反応します。

胎内は羊水で満たされていて、外界とは音の聞こえ方が異なります。水中にもぐっているときに、外から聞こえる音に近いです。母親の声はからだの内側から響くので、赤ちゃんには聞こえやすいです。

声そのものというよりかは、話すスピードやリズムなどを覚えていると考えます。一方、父親の声は生後間もない頃は無理ですが、次第に聞き分けられるようになります。

触覚

とくに発達が早い

人間は、見たり、聞いたり、触ったり、においをかいだり、味わったりして、様々な情報を得ています。このような五感のうち、とくに発達が早いのが触覚です。

おなかの中にいるときから発達が進んでいて、受胎後7週頃には、口の周りに皮膚の感覚が現れると言われています。おなかの中で赤ちゃんは指しゃぶりをしたり、舌を出すしぐさなどをしています。

それらが刺激となって脳の発達を促していきます。そして誕生後は、温度感覚や痛覚が急速に発達していきます。

複数の情報をまとめられるようになる

触覚・味覚などの「近感覚」は早い段階から発達しますが、視覚・聴覚などの「遠感覚」は、大体生後5ヶ月頃から発達します。

これらの感覚で得た情報は、それぞれ単独で認知に結びつくのではありません。成長するにつれて、複数の情報をまとめて認知するようになります。たとえば、自分が暗闇でなめていたおしゃぶりが、明るいところで見たときにどれかわかるのは、触覚と視覚を協応して判断していることを示しています。

赤ちゃんにおもちゃを1つ与えると、じっと見つめたり、なめたり、振ったり、投げたりします。言葉を使えるようになる2歳くらいまでは、赤ちゃんはこのように感覚や運動によって、外の世界を知っていきます。

気質

気質は変化しにくい

周囲の状況にかまわずによく眠る子もいれば、少しの音ですぐに起きてしまう子もいます。動きが活発で、寝返りやハイハイが早い子もいれば、動くのに慎重な子もいる。

人間はみんな個性を持っています。それは生後間もない赤ちゃんでも同じであり、このような生まれつきの特性を「気質」と呼んでいます。アメリカの精神科医トマスは、乳児110人を対象に気質の研究を行いました。

研究によると、気質を決定づける要因として、身体活動の活発さや睡眠、排泄などの周期性、環境への順応性など9つの側面をあげています。さらに、9つの側面の組み合わせから、子どもの気質を以下の3つに分けています。

  • 扱いにくい子どもたち
  • エンジンがかかりにくい子どもたち
  • 扱いやすい子どもたち

気質は一定期間持続して、とくに乳幼児期はほぼ安定していて変化がないものだといいます。

9つの側面

気質の上に人格はつくられる

あの人は明るい性格をしている」とよく言いますが、これは生まれ持った気質がそのまま現れているのでしょうか。

確かに気質自体は変わりにくいものですが、大人になっても、それがそのまま現れるケースは少ないです。というのも、親を始めとする周囲の人間や生活環境、社会環境などと関わり合いながら成長していくからです。

つまり、表に現れてくる性格(人格)は、後天的なもので、気質を元につくられます。梅干しにたとえると、気質は梅干しの種、その周囲を取り囲む果肉が性格だといえます。

確認問題

第2章で学んだことを確認してみましょう。