第1章:発達って何だろう?

発達というと「成長・発育」などの右肩上がりに進んでいくイメージを持つ人が多いです 。しかし、発達心理学での発達には、さまざまなものが含まれています。それらをこれから学んでいきましょう。

定義

「発達」はこころ・からだの変化

人間は生まれてから死ぬまで心身ともに「変化し続ける生き物」といっても過言ではありません。

たとえば、からだの大きさを見てみます。生まれたばかりの赤ちゃんは、身長が50cm前後で体重は3000gくらいです。自分の今の身長・体重と比べて全く違うことが明らかです。

数字では表せない変化もあります。寝ているだけの赤ちゃんが、数ヶ月後には寝返りをしたり、ハイハイをしたりするのは動きの質的な変化です。

からだ以外にも変化があり、子どもは1つの単語から言葉を覚えていき、次第に複雑な文章も扱えるようになります。さらに筋道を立てて物事を考えたり、抽象的な考え方ができるようになってくるなど、大人になるまでに大きく変化していきます。

このような変化をすべて「発達」としてとらえて、人間のこころ・からだ、行動などの変化を研究するのが「発達心理学」です。

発達は子どもだけではない

一般的に「発達」というとプラスのイメージを持つ人が多いです。しかし、プラスの変化だけではありません。これまでできていたことができなくなったり、以前より時間がかかるようになるなどのマイナスの変化も存在します。

精神的な面でも、人生を振り返る気持ちや死に対する気持ちなど、老年期になって初めて現れる変化もあります。そういった意味で、人間は大人になってからも変化、つまり発達していきます。

このような考えに基づき、現在では青年期以降のからだ・こころの変化を対象として扱うものや、受精から死ぬまでの一生涯を対象とする「生涯発達心理学」などが提唱されています。発達心理学という学問そのものも変化していると言えます。

発達の法則

基本的な法則を知る

生まれて間もない赤ちゃんは寝たきりですが、次第にお座りやハイハイをしたり、立って歩くようになります。このような運動の発達は無秩序に進むのではなく次のような5つの法則があります。

法則①

1つめは「頭部から足部へ」と発達することです。

赤ちゃんは生後1ヶ月くらいで頭を真っ直ぐに保てるようになって、3~4ヶ月頃には首がしっかりします。その後、腰や足が発達してきて、立ったり歩いたりできるようになります。

法則②

2つ目は「中心から末端へ」進むことです。

胴体から肩、腕、手、指先へと順に発達していきます。

法則③

3つ目は「一般から特殊へ」という法則です。

生後2ヶ月頃の赤ちゃんにものを差し出すと、両手両足をバタバタさせますが、手でつかむことはできません。しかし6ヶ月頃になると、片手でものをしっかりつかめるようになります。行動が次第に分化して特殊な反応が現れてきます。

法則④

4つ目は「発達は連続的」という法則です。

発達は1つ1つ段階的に連続して進んでいくものであり、それを示したのが発達段階です。

法則⑤

5つ目は「発達には個人差がある」ということです。

発達順序やスピードには、遺伝的な素質や環境、経験が深くかかわっています。そのため、育児書通りではなく、その子どもに合ったスピードで発達していくと考えた方がよいです。

遺伝・環境

体格は環境よりも遺伝が影響する

背の高い子どもを見かけたときに「親も背が高いんだろうな」と思うことはないでしょうか。「背が高いのは遺伝」というのが一般的な考え方だからです。実際はどうでしょうか。

双子を対象にして「遺伝的要因」と「環境的要因」の関係を調べた研究があります。

その研究によると、身長や体重などの体格は、やはり遺伝の影響が強く現れます。しかし筋力や運動能力などは環境の影響が強いです。

からだは、遺伝・環境のどちらか一方ではなく、両方が関わって発達していくものです。たとえば右利きの場合、左手の握力は遺伝の影響が強いですが、右手の握力は環境の影響が強い。これは普段よく使う右手は、左手よりも環境の影響を受けていると考えられるからです。

逆に、環境的な要因がからだの発達を妨げることもあります。ひどい家庭環境から、からだの発達が止まってしまった男の子は、環境がよくなると急激に体格が発達したというケースも報告されています。

遺伝・環境は影響し合う

人格の形成には、遺伝・環境はどのように関わっているのでしょうか。

古くから発達心理学では「遺伝か環境か」が問題となっていましたが、やがて「遺伝も環境も関わる」という考え方に変わってきました。さらに近年では、発達は「遺伝的要因と環境的要因の相互作用」によるという考え方が中心となってきています。

子どもは親を始めとする環境から影響を受けるだけではなく、子ども自身も環境に影響を与えます。遺伝的要因と環境的要因が互いに影響を与え合って発達していきます。

社会化

人間らしさは身につけていくもの

人間は、何らかの形で他人や社会との関わりを持って生きる社会的な動物です。家庭や地域、学校、職場など様々なレベルの集団に所属して、それぞれが役割を担っています。

人間社会の中で、それぞれの構成員として生きていくには、言葉を始め、共通の価値観や知識、生活様式などを身につけていく必要があります。その過程を「社会化」と呼んでいます。

子どもが社会科していくには、周囲の手助けが欠かせません。たとえば両親や先生、遊び仲間などは重要な「社会化の担い手」とされています。

とくに乳幼児期においては、両親が最も重要な担い手となります。親から教えられたり、親の姿を見て子どもの社会化は進んでいきます。

幼少期の環境が人間らしさを生む

それでは適切な担い手がいない場合は、どうなっていくのでしょうか。その答えは「野生児の例から探ることができる。

幼少期に他の人間と全く関わらずに育った野生児は発見当初、2本足で歩くこともできず、言葉も持たず、感覚や感情、知的な面での発達も遅れていたのだといいます。

その後、人間らしさを取り戻すための教育が行われましたが、一般レベルには到達せずに言葉も獲得することができなかったと報告されている。

つまり、人間らしさを身につけるのは幼少期であって、その時期に適切な担い手がいない場合には、人間らしさを生むことはできないということになります。幼少期は最も大事な時期ということにもなります。

学習

勉強することが「学習」ではない

人間の行動のほとんどは、学習が元になっています。学習と言うと、読み書きや計算などの勉強を思い浮かべますが、そうではありません。

たとえば、手を洗うときに無意識に服の袖をまくるのは、以前にぬらしたことがあるからです。また、犬に噛まれたりして怖い思いをした人は、犬に近寄らないようにします。

このように経験によって、それまでの行動が変化したり、別の行動が起こったりします。心理学ではこれを学習といいます。

学習を起こす2つの条件づけとは

学習のメカニズムを科学的に解明したのが、ロシアの生物学者である「パブロフ」です。彼は犬にベルの音を聞かせてから、エサをあげる実験を繰り返し行いました。

以前はエサをあげないと出なかった唾液が、ベルが鳴っただけで出るようになった。「ベルが鳴るとエサがもらえる」ことを犬が学習したからです。パブロフはこの反応を「条件反射」と名付けました。それによっておこる学習を、現在では「古典的条件づけ」と呼んでいます。

また、自発的な行動を伴う学習もあります。アメリカの心理学者である「スキナー」の実験で証明されたものです。レバーに触れるとエサが出る仕掛けをした箱にネズミを入れます。偶然レバーを下げたときに、エサが出ることに気づいたネズミは、お腹が空くと自分からレバーを下げるようになります。

ある行動をしたときによい結果を得たことで、その後の行動が変化した。道具を用いているので「道具的条件づけ」または「オペラント条件づけ」と呼ばれています。

確認問題

第1章で学んだことを確認してみましょう。

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