第1章:アンガーコントロールが必要な理由

不機嫌な職場から脱却

職場で本音を交わし合えない

いつも社員がイライラしていたり、ギスギスした雰囲気の職場にいる人も少なくありません。同僚に感情的な人がいて、普段その人に気を使いながら過ごしている人もいます。

日本ではよく見られる光景ですが、このように空気が蔓延している職場が、まさに「不機嫌な職場」です。不機嫌な職場には様々なパターンが存在します。

  • 上司が一方的に指示を出す職場で、部下は従うだけの関係性
  • 他の社員がいる前で、日常的に上司が部下に対して怒鳴っている
  • 皆が心の中で様々な思いを抱えながら仕事をしている

このような職場では、在籍している社員が「失敗したら吊るし上げられるかも…」と怯えてしまって、新しい挑戦ができなくなります。そうなってしまうと「失敗しないでとりあえずこなせば良い」という人が増えたり、意見があっても上司の顔色をうかがって忖度したり、自分だけ良ければいいという発想で足の引っ張り合いが始まります。

社員の中に、感情的に騒ぎ立てる人がいる場合には、誰かのイライラが伝染して周囲まで不機嫌になってしまうこともあります。八つ当たりをされると、悶々とした怒りを他人にぶつけてしまうという連鎖が起こってきます。これらも「不機嫌な職場」でよくみられるパターンです。

上司のみに原因があるのではなく、部下に問題があって不機嫌な職場がつくられることもあります。

  • 何をするにも自分のペースで行動する
  • 他人への配慮がない
  • チームで協力しないで、自分のミスを誰かのせいにする

このような場合に、上司がパワハラに該当しないかを気にして、注意できないということも頻発しています。

上司は職場環境に影響を与える

上層部の方たちが感情をマネジメントできているかどうかは、職場環境に大きく影響します。

権限を持っている人が自分の怒りの感情を上手にコントロールできないと、その怒りが下に流れてしまい、職場環境に大きく影響を与えます。そのため、リーダー層の人ほどアンガーコントロールのスキルが必要だと考えます。

不機嫌な職場にメスをいれるのであれば、部下よりも先にリーダー層が怒りをコントロールできるようになることが大切です。若手も怒りのコントロールは必要ですが、権限を持つ人の影響は非常に強力です。だからこそ、パワーハラスメントという言葉も存在します。

パワハラ問題のあるような不機嫌な職場では、生産性は上がりません。まずはリーダーから、怒りをコントロールする術を身につけていきましょう。

パワハラは法的に規制

パワハラ防止法が施行

2020年6月から、パワハラ防止法が施行されています。

2019年5月29日に、参議院本会議にて女性の職業生活における活躍の推進に関する法律などの一部を改正する法律案が可決された。そして、パワハラ防止対策について法制化されました。

ハラスメント対策を義務づけるものとして施行時期は、

  • 大企業が2020年6月から
  • 中小企業が2022年4月から

と報じられています。

厚生労働省から、このような規制法が施行されるので、多くの組織が取り組みを始めています。

現状では、積極的に対策しようと行動してあるのは大企業です。施行が2020年ということ、国からの指導が入る可能性があること、企業の信頼低下に繋がる可能性もあるということからです。

パワハラについて厚生労働省では、以下の6類型を明示しています。

このような6類型の形式のなかで、とくに「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」などは、アンガーコントロールと関わりがあります。

カッとなった時に暴力的な行為をふるってしまう、指導の一環として相手を追い詰めるような言動をしてしまう人は、アンガーコントロールを身につけていくことで避けることができます。

そもそも、パワハラの定義は「優越的な関係を背景にした言動であり、業務上必要な範囲を超えて、労働者の就業環境が害されること」とされています。

この定義を踏まえたうえでパワハラ防止策をとることが、企業に義務づけられています。これに従わない企業には、厚生労働省が改善を求めて、それに応じなければ同省が企業名を公表することもあるという法律が、パワハラ防止法です。

パワハラを防ぐ防止策のひとつとして、管理職にアンガーコントロールを取り組ませる動きも増えてきています。多くの人にとって、指導とパワハラの線引きが悩ましいところです。

今までは、このような取り組みは活発ではありませんでした。現在の管理職が若手のときに、適切な指導を受けてきたかというと、そうではありませんでした。見本となるロールモデルがいない中で「パワハラに気をつけて」と言われても困るだけです。

価値観の多様化

働き方は多様化の一途をたどる

働き方改革」という言葉をよく耳にするようになりました。

年代が少し違うだけでも、価値観が異なるようになってきたました。そのため、自分では当たり前だと思っていたことでも、他の人には当たり前ではなかったりという現象が起こりやすくなっています。

たとえば、会議は対面で行うのが当たり前の時代がありましたが、最近ではオンラインを通じてリモート会議をするようにもなってきました。このように、働き方に関する価値観が徐々に多様化してきています。

また、ひと昔前は終身雇用というものが主流でしたが、現在でも終身雇用を望む人がいる一方で「自分のスキルアップのために転職をしたい」という人も増えてきています。

若手社員の研修をしていると、指導者側が「これは常識だろう」と思っていたことでも常識とは言えないと感じることもたびたびあります。それだけ、仕事に対する考え方も時代とともに多様化してきていると言えます。

怒っている時間はもったいない

生産性を上げるには感情コントロールが大切

イライラした感情を抱いていると、多くの人は集中力が途切れて冷静な判断ができなくなります。

仕事に集中しなければいけないのに気が散ったり、ミスを招いたりして仕事結果にも影響してしまいます。

どうにもできない状況に対して、

「なんでこうなるんだろう」

「どうしてこうなったんだろう」

「どうしてあの人はいつもこうなんだろう」

とイライラしても、解決策は生まれません。要するに、怒っている時間が無駄になって、ストレスがたまるだけになってしまいます。

「怒り」という感情を感じることまではかまいませんが、その怒りをどう扱うかで、仕事のパフォーマンスを上げることにつながります。また怒りを周囲にぶつけたり、いつもイライラしていると、メンバーとの関係も悪化していきます。

結果的に「チームで協力」「貢献し合う」「コミュニケーションを取る」という事も妨げられてしまうと、生産性にも響いてきます。

働き方改革は、限られた状況でパフォーマンスを上げようという取り組みです。皆がイライラしていたら、働きやすい職場とは感じられません。感情をコントロールできるかは、生産性向上や働き方改革に大きく関わっていきます。

第1章のまとめ

1.心理的安全性があって、自分らしく働ける環境

  • 自己理解・自己開示・自己表現ができること

2.心理的安全性を実現させるために

  • みんなで「アンガーコントロール」に取り組む

3.権限のある立場の人こそ

  • アンガーコントロールが必要→職場でのリーダーの在り方が環境を変える

4.パワハラ防止策

  • パワハラについて正しい知識を勉強する
  • 管理職にアンガーコントロールを取り組ませる

5.リーダー層がすべきこと

  • お互いの違いを認める
  • 今後どうするかというゴールに向かって議論する
  • 非建設的な発言は控える
  • 自分の主張を押しつけない

6.アンガーコントロールをリーダー層が身につけていない場合

  • イライラを他人にぶつけて、メンバーとの関係が悪化
  • チームでの「協力・貢献・コミュニケーション」がとれなくなる

確認問題

第1章で学んだことを確認してみましょう。