第3章:アドラー心理学の考え方

使用の心理学

与えられたものを目的に向けて使う

「上手くいかないのは、自分の素質でのせい」そう考えるのは原因論です。アドラーとは相容れない考え方です。

「上手くいかないのは、目標の立て方が適切ではなく、自分の素質が正しく使えていないから」と考えるのが、アドラーの目的論です。自分の持っているものを、どうすれば最大限に使えるかを考えていきます。このため、アドラー心理学は「使用の心理学」という側面を持っています。

重要なことは、何を持って生まれたかではなく、与えられたものをどう使いこなすか

アドラーの有名な言葉です。ないものねだりをせずに、持っている素材を存分に使う発想で、目標の重要性を徹底して協調していきます。

劣等感が個人を成長させる

劣等感は生きるための刺激

劣等感という言葉は、あまり印象のよい言葉ではありません。しかし、アドラーはこれを「健康で正常な努力と成長のための刺激」と前向きな言葉としてとらえています。

子供の頃から劣等感に悩まされていたアドラーは、劣等感の意味を研究しました。

  1. 器官劣等性
  2. 劣等感
  3. 劣等コンプレックス

の3つを定義としました。

  • 器官劣等性:身体の器官が先天的な障害によって劣っている。
  • 劣等感:主体的に自分の一部を劣等と感じること。
  • 劣等コンプレックス:自分が劣った存在であることを示して、やるべき課題から逃げること。

この中で、アドラーが重要視したのは劣等感です。他者との比較で劣等を感じことだけでなく、現実の自分と目標とのギャップに対して抱くマイナスの感情も劣等感と考えました。

つまりアドラーは、劣等感を目標に向かってよりよく生きようとするための刺激であるととらえました。

人は優越性を追求する

悔しい思いをしたり、他者と競争をしたりして頑張った経験は誰にでもあります。

それらの努力が積み重なって、今のわたしたちがあります。同様に人類も、劣等感をエネルギーとして高度な文化を作ってきたと言えます。

アドラーは、人間は常に「優越性を追求する」といいます。ただしその過程で、悩みも生じる場合があります。結果だけを追い求めたり、称賛を得ることが目的になってしまうと、劣等感情は異常に膨れ上がります。

また、自分が優れていることを、ことさらひけらかす優越コンプレックスに陥ることもあります。

ライフスタイルは選べる

変えれる性格

アドラー心理学の重要な概念に「ライフスタイル」があります。これは、わたしたちが普段使っている生活様式とは意味が異なります。その人の「性格・生き方・考え方」に近い意味です。

その人特有の考え方(思考)、感じ方(感情)、それらがもとになった判断や行為(行動)といった、これらの総合されたものを性格といいます。アドラーは、この性格という言葉に「変化しにくい」イメージがあると感じました。

アドラーは、自分次第で自分自身を変えることができると言います。そこで、性格さえも努力次第で変えられるというニュアンスを含めて、ライフスタイルという語を用いました。

3つの信念

アドラー以後も、後継者によってアドラー心理学は発達してきました。そして現在では、ライフスタイルは信念に近い意味でとらえられています。

  1. 自己概念(現在の自己についての信念)
  2. 世界像(世界の現状についての信念)
  3. 自己理想(自己と世界の理想についての信念)

大きくこの3つにまとめられる。

①が「自分が営業が苦手」だとすると、営業の仕事を拒否したり必要以上の劣等感を持ったりします。②が「周りには優秀な人ばかり」とすると、多少成功してもまだ足りないと思うでしょう。③が「自分が出世するべきだ」とすると、周りと穏やかな人間関係を築くのが難しくなります。

アドラー心理学では、ライフスタイルをこのように3つに分けてとらえて、それぞれ問題のある部分を変えることで、人間関係を改善していきます。

人生を豊かに送るライフタスク

人生で直面する課題

アドラー心理学でいうライフタスクとは、わたしたちが人生で直面する課題です。それは、受験や結婚などの大きな課題のほかに、決めた時間に起きるクレームの電話に出るなどの小さな課題も含みます。

ライフタスクへの処し方には、人間関係が絡んでいます。アドラー心理学では、ライフタスクからもその人の抱えている問題を探っていきます。

仕事・交友・愛

アドラーは、ライフタスクを3つに分類しました。

  • 仕事:職業などへの取り組み。義務や金銭的責任が関わる。
  • 交友:利害関係が絡まない、身近な他者との交流。どんな付き合いをするかで人となりが浮き彫りに。
  • :恋愛が中心で、夫婦や家族も含んだ関係。

アドラー以後の現代では、自分と付き合うセルフタスク、宗教に関わるスピリチュアルタスクの2つが加わります。

タスクは互いに関わり合います。仕事のタスクをこなすには、その仕事に関わる人との交友のタスクも円満にする必要があります。何か一つに取り組むことは難しいということになります。

幸福を手にするための共同体感覚

「私一人くらい…」が社会を壊す

アドラー心理学の、重要コンセプトが共同体感覚です。アドラーは「仲間の人間に関心を持って、全体の一部になること」が共同体感覚の基本としています。

わたしたちが生活する社会は、たくさんの利害関係が渦巻いています。個人が自分の利益を求める過程で、他者の利益を全く考えないとします。すると敵対関係が生じて、安全な社会生活は壊れてしまいます。

「私だけなら大丈夫」と思って全員がごみをポイ捨てすると、あたりはたちまちゴミだらけになってしまうのと同じということです。

悩みの解消に

アドラーは私的論理から離れて「他者も共通して意味のあること」を目的にするべきだといいます。人類は社会を維持するために、様々な規則や法律を定めて、それを守るように努めてきました。心の持ち方も同じです。

個人は全体の一部であり、個人は全体と共に生きていることを実感します。このような共同体感覚が、健全な人間関係を維持して心の悩みを解決していくとアドラーは結論しました。

アドラーは共同体の範囲に、際限を設けておらず、どこまでも共同体です。家庭や地域、職場、果ては宇宙までと広くとらえました。

確認問題

第3章で学んだことを確認してみましょう。