第1章:ヨガの歴史と哲学

ヨガの起源

ヨガの起源は、今から約4,500年前の紀元前2,500年頃のインダス文明にあると言われています。

インダス文明最大級の都市遺跡「モヘンジョ=ダロ」から、坐法を組んで瞑想する神像や様々なポーズをとる陶器製の小さな像などが発見され、何らかの修行法が存在したのではないかと推測されています。

モヘンジョ=ダロ

紀元前1,500年頃には、アーリア人が信仰するバラモン教の宗教的書物ヴェーダ聖典の中で、ヨガに通じる哲学や考え方が記されていました。

ヴェーダとは知識・智慧という意味で、バラモン(神官階級)の間で口頭伝承によって伝えられていました。

紀元前800年~500年頃、サンスクリット語で書かれた奥義書ウパニシャッドの中で「ヨーガ」という単語が現れるようになります。
中期の『カタ・ウパニシャッド』に出てきていることから、社会的にヨガが修行法として確立、認知されていたことが分かります。
「ヨーガ」という言葉が社会に認知されたのはこの頃であると考えられます。

ヨーガ・スートラ

2〜4世紀頃、インドの哲学者パタンジャリによってヨガの根本経典ヨーガ・スートラが編集されます。

『ヨーガ・スートラ』は「心の作用を止滅することが、ヨーガである」という定義から始まり、心の科学としてヨガを体系的にまとめた最も古い文献です。
スートラとはを意味しており、195の短い言葉を糸のように連ねられています。

以下の4つの章から構成されています。

『ヨーガ・スートラ』に書かれているヨガは、身体を動かすヨガではなく、瞑想や坐法を中心とした静的なヨガのことになります。

この静的なヨガのことをラージャ・ヨーガといい、「ラージャ・ヨガ」を進化させていったものが、現在のハタ・ヨガになります。

アシュタンガヨガ(八支則)について

ヨガの教えには、八支則(はっしそく)という8つの段階・行法があります。
サンスクリット語でアシュタ(Ashta)=8アンガ(Anga)=肢という意味があります。

ヨガの聖典、聖者パタンジャリが説いた『ヨーガ・スートラ』の中に出てくる、ヨガ哲学の基本的な教えになります。

特に、①Yama(ヤマ)②Niyama(ニヤマ)は、日々の社会的・個人的行動規範となる教えです。

基本的なことですが実際に実践するのは難しく、この2つができていなければそのあとの過程にいくことはできないとも言われています。

①Yama(ヤマ)
他人や物に対して守るべき行動。道徳的基本。

②Niyama(ニヤマ)
自分に対して守るべき行動。精神的に守ること。

③Asana(アサナ)
ヨガのポーズ。

アサナと共に意識を体の内側に向けていく。
瞑想への準備。

④Pranayama(プラナヤマ)
呼吸と身体、心を繋げることに意識を向けていく。
意識的な呼吸を行うことで、自身に活力を与える。

⑤Pratyahara(プラティヤハーラ)
感覚の制御。
外からの注意を五感から引き離して内観する。安定した精神状態を保つ。

⑥Dharana(ダーラナ)
集中。
意識を安定、一点に留め動かさない。

⑦Dhyana(ディヤナ)
瞑想状態。
対象物に集中することもなく、深い静かな精神でいられる状態。

⑧Samadi(サマーディ)
最高次の超意識状態。
深い瞑想と融合しておこる、悟りの境地。

世界のヨガの歴史

  • 紀元前2,500年頃:インダス文明においてヨーガの起源発生
  • 紀元前1000年頃:聖典「ウパニシャッド」に「ヨーガ」という言葉が記載
  • 400年頃:ヨーガの古典文献の中で最古の『ヨーガ・スートラ』が成立
  • 1300年頃:「ハタ・ヨガ」大成
  • 1600年頃:「ハタ・ヨガ」が体系化される
  • 1920年代:インド中央政府がヨガ大学を設立、ヨガ学科を設置する
  • 1970年代:米国の若者を中心に瞑想中心のヨガが流行(第一次ヨガブーム)
  • 1990年代:ハリウッドセレブを中心にアシュタンガヨガやパワーヨガなどエクササイズ中心のヨガが流行(第二次ヨガブーム)

日本のヨガの歴史

  • 806年:唐から帰国した空海の時代。ヨガは瑜伽(ゆが)と呼ばれる瞑想が中心
  • 1919年:中村天風が「心身統一法」を創案
  • 1940年代:三浦関造によって、ハタヨガの修行活動が行われる
  • 1958年:沖ヨガ創始者である沖正弘らが「日本ヨガ協会」「ヨガ行政哲学研修会」を設立
  • 1966年:大阪大学名誉教授の佐保田鶴治が「ヨガ・スートラ」翻訳・解説
  • 1970年代:第一次ヨガブーム。綿本昇がエクササイズ要素を盛り込む
  • 1980年:第1回国際総合ヨガ世界大会開催。健康法としてフィットネス界にヨガが進出
  • 1990年代:ファッショナブルなスポーツとして若い女性を中心に第二次ヨガブーム
  • 1995年:オウム地下鉄サリン事件によりヨガ人口が激減
  • 2003年:ハリウットセレブを中心に世界規模のヨガブームが伝わり、若い女性を中心に爆発的ブームへ
  • 2003年:木村慧心により「日本ヨーガ療法学会」設立
  • 2004年:日本最大級のヨガイベント「ヨガフェスタ」開催。ヨガ専門雑誌「ヨガジャーナル日本版」「ヨギーニ」「YOGAYOMU」創刊
  • 2010年代:ヨガ人口が100万人以上になる

確認問題

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