第1章:アスリートの基本的な栄養摂取

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アスリートに栄養サポートが必要な理由

エネルギーや栄養素の必要量が多い場合には、バランスの良い食事だけでは不足します。

食事をする際の基本はバランスよく食べることです。
しかし、アスリートが1日に必要なエネルギー・栄養素を摂取するためには、バランスよく食べることが難しくなります。

①エネルギー必要量が増えるのに食べる量に限界がある

アスリートは身体活動量の増加に伴い、エネルギー・栄養素の必要量が多くなります。
必要量を補うためには食べる量を増やさなければいけないですが、人それぞれ食べれる量には限界があります。

身体活動量に合わせて胃の大きさが変化することはないです。

②運動中には効率よく消化・吸収はできない

運動中には自律神経の交感神経が優位になります。

その際に消化・吸収が抑制されてしまい、効率よく消化・吸収を進められません。
自律神経は「交感神経」「副交感神経」からなっており、消化・吸収は副交感神経が優位の時に促進されるので、運動中の消化・吸収は難しくなります。

③運動時間が長いと消化・吸収を効率よく行う時間が短くなる

アスリートのように運動時間が長くなると、1日24時間ある中で消化・吸収を効率よくできる時間が短くなります。(理由は②と同じ)

身体活動量が多くなれば、それに対するエネルギー・栄養素の摂取量を増やさなければいけないのにもかかわらず、通常の食事や捕食だけではそれらを補うことはできません。

このような場合に、摂取量と必要量の差を埋めるために栄養サポートを積極的に導入するなど、適切な栄養状態にすることが最重要となります。
また、栄養状態を維持していくためには、サプリメントの活用が必要な場合もあります。

アスリートにとっての栄養素の摂取

①糖質

糖質は生命維持や身体活動時のエネルギー源となります。
現在では、糖質制限などがブームになっていますが、アスリートにとっての糖質摂取の意義について理解を深めておきましょう。

アスリートの糖質摂取

アスリートにとって、糖質を考えて摂取しなければいけない理由は下記の3つです。

  1. 練習・試合で使う前にためておくこと
  2. 練習・試合中に補給すること
  3. 練習やトレーニング後に使った分を補うこと

糖質は体内に貯蔵できる量が限られています。
貯蔵しているグリコーゲンが枯渇してしまえば、動きや集中力の低下や疲労感の高まりによってパフォーマンスの維持が難しくなります。
そのため、糖質補給の量やタイミングをはかることが大切になります。

上記の表に書いてある摂取量は目安量として活用していきます。

それは、体重1kgあたり3~5gのように幅があるからです。
例えばこの幅を摂取量として示すと、体重50kgの人の場合には「150~250g」となり、この100gの差はエネルギーで表すと400kcalと大きなものになります。

この差を個人のトレーニングの状況に応じて調整していかなくてはいけません。

リカバリーのための糖質補給

筋グリコーゲンは、運動直後の糖質摂取によってリカバリー効果が高まります。
このタイミングでのたんぱく質の同時摂取は、グリコーゲンの回復に影響がないとの報告もあります。

運動後の回復期間中早期の4時間までは、糖質の摂取を約1~1.2g/kg/時にすることでリカバリー効果を最大限にすることができます。
またその後の糖質摂取が適切な場合には、24時間で回復します。

しかし、回復中(24時間以内)にトレーニングなどをした場合には、十分な回復ができません。
例えば、毎日同じ時間にトレーニングをしている場合には、練習の質・量にもよるが、完全な回復ができていない状態でトレーニングをしていることになります。

②脂質

「糖質・たんぱく質はしっかりとるべきだけど、脂質は控えるべき」と決めつけているアスリートも少なくないです。
脂質には生きるために必要な栄養素としての役割だけではなく、とり入れ方によってはアスリートにとっても有効活用することができます。

アスリートの脂質摂取

エネルギーの必要量が多くなった時には、通常ご飯の量を多くしたり捕食でおにぎりを食べたり、エネルギーゼリーを食べたりします。

長期間にわたって脂質の摂取量が総エネルギー摂取量の20%以下になった場合、脂溶性ビタミンの減少や必須脂肪酸の摂取不足に陥ることもあります。

脂質の摂取量が少ないアスリートは、骨膜炎や筋膜炎・肉離れなどの筋肉や膜の損傷が多く、完治に時間がかかったり再発に苦しむことが多いです。

皮下脂肪量の少ないアスリートには、積極的に油の摂取を進めていきましょう。

③たんぱく質

アスリートにたんぱく質というと「筋肉」をイメージするため、積極的に摂取している傾向にあります。
しかし、たんぱく質については誤解も多いので注意が必要です。

たんぱく質の過剰摂取は、パフォーマンスにも影響が出るということです。

アスリートのたんぱく質摂取

アスリートにとってのたんぱく質摂取は、2つに分けて考えます。

  1. 運動中にエネルギー源として使用された、たんぱく質のリカバリーのための摂取
  2. 運動中の刺激に対して筋肉の合成をするために必要なたんぱく質の摂取

この2つの考慮すべきことを研究結果に基づいて整理して、体重1kgあたりに必要なたんぱく質摂取量として示しているものが以下の表になります。

リカバリーのためのたんぱく質摂取

通常私たちは、エネルギー源として糖質・脂質を使っています。

しかし、運動強度が高くなったり、運動時間が長くなったりするとたんぱく質が分解されます。
つまりこの分解をしない運動は、運動強度が低くて時間も短いという事になります。

競技力向上を考える場合には、分解なしにトレーニングするのは難しいです。
たんぱく質の分解には以下の2つの影響があります。

  1. 筋肉中の分岐鎖アミノ酸を利用するためには、骨格筋を分解しなければならない。骨格筋内の分岐鎖アミノ酸だけを抜き取ることはできないので、骨格筋のダメージが大きくなります。これは「末梢性疲労」の原因と考えることができます。
  2. 分解されたほかのアミノ酸の行方に関わる。多くのアミノ酸は、遊離アミノ酸になるか、肝臓でさらに分解されて様々な組織で使われます。しかし、必須アミノ酸の1つであるトリプトファンは、神経系の疲労「中枢性疲労」の原因になると考えられています。

上記のような影響があるために、分岐鎖アミノ酸の分解は避けたいが、競技力向上を考えている場合には、全く分解なしにトレーニングすることは難しいです。
しかし、できるだけ筋肉中の分岐鎖アミノ酸の分解をしないようにすることは可能です。

具体的な方法としては、運動前から筋グリコーゲン量を多くしておくこと、運動中に糖の摂取を続けることなどがあります。

④ビタミン・ミネラル

糖質やたんぱく質の摂取に注目されがちですが、運動量が多くなるほどビタミン・ミネラルも多く必要になります。

野菜や果物だけではなく、様々な食材からビタミン・ミネラルの摂取を意識していきましょう。

アスリートのビタミン摂取

ビタミンとパフォーマンスを考えるうえで、3つの柱があります。

  1. エネルギー代謝に必要なビタミンB群
  2. 抗酸化作用
  3. ビタミンD

ビタミンB群の摂取
ビタミンB群は、エネルギー代謝の過程で起こる化学反応時の補酵素として必要不可欠です。
エネルギー消費量が増加し、その分エネルギーの必要量が多くなると、比例してビタミンB群の必要量も多くなります。

ビタミンB群は水溶性ビタミンなので、摂取して必要量が満たされると余剰分は排泄されます。

必要以上にビタミンB群のサプリメントを摂取したときは、尿が通常時より黄色くなって、ビタミンの匂いがすることもあります。

抗酸化作用
運動によって体内への酸素摂取量が増加すると、活性酸素の生成も増加していきます。
運動によって酸素の必要量が増すと、エネルギー代謝が多くなった分、化学反応の道を外れてしまう酸素がが出てきます。

この酸素は通常の酸素よりも不安定であり、様々な物質を酸化していくことから「活性酸素」という名前がつけられています。

活性酸素は免疫機能を発揮するという良い面もありますが、細胞内のDNAの損傷を引き起こしたり、過酸化脂質を生成したりするので、細胞の機能を低下させることもあります。

アスリートに運動は欠かせないので、活性酸素を発生させないように酸素の摂取量を調整してトレーニングをすることはできません。
このため、抗酸化物質を積極的にとること、運動以外では活性酸素の発生を極力少なくすることで、影響を小さくすることができます。

抗酸化物質の摂取には、バランスの良い食事やナッツ類、果物、野菜の摂取量を意識しましょう。

ビタミンDの摂取
ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収と代謝を調整している脂溶性ビタミンです。
最近では、ビタミンDとパフォーマンスに関する研究成果を多く目にするようになりました。

ビタミンDは紫外線B波(UVB)によって活性型ビタミンDになり、代謝に影響を与える事から、北欧など冬の間に日光に当たることができない地域や室内種目のアスリートへの影響は大きいです。

ビタミンDの摂取をしていても、UTBの照射時間が少ないとビタミンDの欠乏状態になって骨などに影響を与えることもあります。
ビタミンDに対して考慮すべき要因も多く、食事摂取基準においても必要量を提示せず、目安量と耐容上限摂取量を示すにとどまっています。

対策として、食事摂取基準である目安量の「8.5㎍/日」を少なくても摂取して、UTBの照射量を意識した生活が大切です。

確認問題

第1章で学んだことを確認してみましょう。