感情交流と役割関係を上手に実行する際には、コミュニケーションスキルが重要になります。
近年は、カウンセリングが一般的に親しまれるにつれて「表情」「声のトーン」「ジェスチャー」などの非言語のコミュニケーションスキルも重要視されています。
ここで理解する必要があるのが、目的によって多様なコミュニケーションスキルを駆使する必要があるということです。
例えば、感情交流と役割関係でも使うコミュニケーションスキルは変わってきます。詳しくみてみましょう。
コミュニケーションスキルの使い分け
例えばあなたがスーパーのレジをしているとしましょう。そこで感じのいいお客さんが来てお会計を進めます。
役割関係のコミュニケーションスキルだと、「お会計は700円になります」とだけ発言し、店員と客の関係性を保ちます。
しかし、心の中では「少し話してみたいな。」と思っているかもしれません。
ここで一言相手の感情に訴えかけるような発言、例えば野菜を手に取りながら「〇〇は今が旬でおいしいですよね。」という発言をすることで、それをきっかけに店員とお客という枠を超えて感情交流が始まっていきます。
この例でも見たように、役割関係をこなすためのコミュニケーションと感情交流のためのコミュニケーションは別物と捉えたほうが理解しやすくなるでしょう。
傾聴
役割関係で頻繁に使われる傾聴ですが、カウンセリングにおいて最も重要な要素だといっても過言ではありません。後程詳しく学習しますが、「自由連想」を促す際に必要になってきます。
傾聴の定義は以下の通りです。
「傾聴とは相手の話をただ聞くだけではなく、相手の話に共感しながら深く聞き入ること」
相手の話に共感しながら深く聞き入ることが必要な場面では「傾聴=問題解決」とされています。全ての問題は、誰でも相手の話をただ聞くことはできますが、共感しながら深く聞き入ることができないことです。これができれば、人は理解してくれたという安心感から、悩みや問題から解放されやすくなっていきます。
これはロジャーズの来談者中心療法でも一部見られる姿勢です。
実際のカウンセリングの場面でも、役割関係・感情交流は別です。傾聴ができたからといって、役割関係を遂行することはできません。傾聴だけでは全ての問題の解決にはつながらないということです。
傾聴が聞くことを重視しているために、一方的にクライアントの話を聞く姿勢ばかりが重視されてしまいますが、コミュニケーションは双方のやり取りがあってはじめて成立します。聞くだけでは、コミュニケーションがとれているとは言えません。
本来の傾聴というものには、特に「非言語スキル」を中心に心から共感していながら、しっかりと受容しているということをクライアントに伝えるという前提が含まれています。
「傾聴=聞く」ではなく、傾聴=相手に自分が味方であることを、感情交流のためのコミュニケーションスキルを使って相手に伝えながら聞くというように理解したほうが、傾聴の効果を正しく認識できるでしょう。
傾聴にも限界があると認識をしていきながらも、役割関係を正しくこなすための知識を身につけることも重要です。
これらを踏まえながら、感情交流をしていくためのコミュニケーションスキルを下記でご紹介していきます。
感情交流スキル
コミュニケーションスキルの中で、感情交流をこなすためのコミュニケーションスキルが一般的にイメージされているコミュニケーションスキルに近いものです。
これは分かりやすく言うと、心と心を通わせるための心の技術とも言えます。以降はこれを『感情交流スキル』と呼びます。
感情交流スキルを更に細分化すると3つの要素で構成されています。
共感力
感情交流スキルの1つ目は共感力です。共感力とは、人の気持ちを汲んで寄り添う気持ちができる力のことを言います。
正論だけでは中々人は動きませんが、相手の気持ちに寄り添うことで大きく状況が変わってくることもあります。例えば相手が楽しい気持ちでいる場合に、自分も楽しい気持ちになれるかどうかということです。
言語表現力
感情交流スキルの2つ目は、感情を言語としてより伝わる形で表現する力です。「私はカラオケが大好きです」と表現するよりも「私はカラオケが三度の主食よりも大好きです」と言うことで、そのものに対してより強い感情を表現することができます。
身体表現力
感情交流スキルの3つ目は、表情や声のトーンなどの非言語の表現力です。「ありがとう」という表現を例に考えてみましょう。無表情で低いトーンで「ありがとう」と伝えるのと、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに「ありがとう」と伝えるのでは、相手に与える印象は大きく異なります。
感情交流スキルは、人に教えてもらったり指摘されることもありません。感情交流は自覚や測定ができないので、議論に上がらないことも多いですが、実際はこれらのスキルを使いこなすことによって大きく状況を変えられるケースもあります。
それでは、それぞれの訓練方法をご紹介します。
共感力の訓練方法
共感力は、相手の感情の種類を体感することが大切です。喜びや悲しみや怒りなどを様々なシチュエーションで疑似体験することが効果的です。
これらの方法としては、歳が離れた人や自分とかけはなれた生活をしている人と会って多様なジャンルの話を聞かせてもらうことです。また、他人の悩み相談に積極的にのるのも良い方法です。一人で実践できる方法としては、たくさんの小説・映画などの創作物を鑑賞するなどの方法が挙げられます。
言語表現力の訓練方法
言語表現力は、相手にどれだけわかりやすくメッセージを伝えられるかということです。具体例をだしたり、相手の年代に合わせて使う言葉を変えたりすることが大切です。
クライアントの歩調に合わせるために、流行りの行事やイベント毎に精通しておくのも良い手段です。
ツイッターやLINEニュースなどで、若者向けのトレンドを簡単にチェックできるので目を通しておくといいでしょう。
身体表現力の訓練方法
身体表現力の訓練方法で一番効果的なのは自分の様子を動画にすることです。
自分の好きな様々な映像を見ながら感情表現を頭に入れることに合わせて、自分が話をしている様子を動画にしておくことで、自分の思い描く表現ができているかを後から確認をすることができます。自分の思い描く表現と実際の表現の誤差を直していく練習が、身体表現力を高めていくために効果的な訓練です。
役割関係スキル
役割関係スキルとは、自分の伝えたいことを相手に的確に伝える力であり、コミュニケーションをとる上で重要なスキルです。
役割関係には、それぞれ遂行しなければならない3つの目的があります。それは、相手に自分が思った通りの行動・反応をしてもらうために、正確で誤解のないコミュニケーションが必要です。以下で遂行しなければならない3つの目的を確認していきましょう。
理解力把握スキル
理解力把握スキルとは、相手が対象となる事柄について何をどれくらい知っているのか、理解しているかを推測・把握する力です。
例えばあなたがパソコン販売のセールスマンだったとして、パソコンを売る際に顧客がどの程度パソコンについて知っていて何を知らないかを考えるということです。パソコンや精密機器に知見がないお年寄りにCPUやプロセッサの話をしても伝わりません。
相手の状況や身振りなどから、相手がどこまで理解しているかを推測するということが大切です。
もしパソコンに詳しくない顧客に売る場合は、機能の話をするよりも、実際にどう使いやすいのかというアクションベースで話をする必要があります。
これは理解力による表現の調整を行ったということです。これも理解力把握スキルに含まれます。
論理的思考力
表現がいくら上手でも論理性に欠けていると説得力は生まれません。パソコンを売る際にも使いやすさの肌感を説明するのと同時に、なぜスムーズに動くのかという根拠も説明する場合もあります。
特定の物事との関係や前後関係を的確に伝えないと役割関係は困難になるケースが多くなります。
カウンセリングでも分析などを行う場合は特に重要になります。
専門知識力
専門知識力は、コミュニケーションスキルに含まれない場合もあります。しかし、実際に相手に的確に状況を伝えるためには、自分自身が状況をよく理解していることが重要です。
どんなにこれまで挙げたスキルが高い人でも、パソコンの知識が全くないのに販売員としてパソコンを売ることができないように、役割関係をこなすには専門知識が不可欠です。
逆に、役割関係の中でも定型化されたパターンの反応は多くの職業・場面で見られます。したがって専門知識力を磨くことで、ある程度他の要素をカバーできる側面もあります。
役割関係スキル訓練方法
役割関係のスキルの訓練方法は、知識のインプット・アウトプットが中心です。理論的思考に関しては以下の書籍を参考にするとよいでしょう。
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専門的知識も本や記事を読むことが一番の勉強方法です。まずは自分の興味のある範囲から勉強を進めてみましょう。そして、学んだことを友達や周りの人に共有することでアウトプットしていきましょう。ツイッターでメモとしてアウトプットするのもおすすめです。
確認問題
第3章で学んだことを確認してみましょう。