第2章 カウンセラーの3つの基本条件

「理論・適用場所・目的」が違っていたとしても、カウンセラーには共通して求められる基本条件が3点あります。それが「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」「自己一致を重視する」の3点です。

上記3点を合わせてカウンセラーの3つの基本条件と呼んでおり、ロジャーズ理論が元になっていることから「ロジャーズの3つの基本条件」とも呼ばれています。

来談者中心療法では、カウンセラーはクライアントの話に割り込むことはしません。カウンセラーとして大切なのは、クライアントの心に寄り添い話を傾聴して、理解していこうとする姿勢です。

カウンセリングを続けていくと、クライアント・カウンセラーの間に固い信頼関係が生まれていきます。その信頼関係を通して、クライアントは新しい視点で自分自身のことや悩んでいる事柄を捉えていくことができます。

その結果としてクライアントの心にも変化が起きてきて、症状も良い方向に向かっていくとロジャーズは結論づけています。

無条件の肯定的配慮

無条件の肯定的配慮とは、相手の話を善悪の評価をつけたり好き嫌いの評価を入れずに聴くことです。相手の話を否定せずに、なぜそのような考えになったのか。また、その背景に肯定的な関心を持って聴いていきます。そうしていくことで、クライアントは安心して話をすることができるようになります。

カウンセラーは、クライアントの話を聴いている中で反対したい意見もあるでしょう。

しかし、自分にとって反対したい意見や興味のない内容の場合にも、クライアントの発言を尊重して、関心・配慮の気持ちを持ちながら熱心に聴いていく姿勢が大切です。

例えば、クライアントが面接中に「買い物に行きたくなったので、今日の面接は中止にして買い物にいきましょう」と提案をしたとします。その提案を受け入れてしまうと、クライアントとの面接が成り立たなくなります。その為、クライアントの発言を無条件に全て受け入れる事はありません。

あくまでもクライアントの意見を尊重して配慮することが大切なので、本来行うべき面接が成り立たなくなる場合には、カウンセラーから状況に応じた適切な判断が必要になります。

この無条件の肯定的配慮を「受容」とも呼んでいます。

共感的理解

共感的理解とは、カウンセラーがクライアントの感情を、あたかも自分も感じているかのように感じることです。また、同時にそれに巻き込まれない立場を保つことにもなります。

例えば、クライアントが怒りを表している場合には「あたかも怒っているように」感じていきます。また、クライアントが困惑した感じであれば「あたかも困惑しているように」ということになります。

これらの「あたかも」とは、自分はクライアントと同じ気持ちではあるが、実際には怒ったり困惑していない状態ということです。

ポイントとしては、怒った時はこのような感情になりやすい。困惑した時はこのような感情になるだろうという気持ちを持つことが大切です。

自己一致

自己一致とは、カウンセラーがクライアントに対しても、自分に対しても真摯な態度で話が分からないときは分からないと伝えて真意を確認することです。要するに、自分のイメージと現実が一致している状態のことを指しているので、自分のイメージすることと現実にズレがある場合には自己一致とは言いません。

「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」「自己一致」の3つの条件をカウンセリングで満たしていくためには、長い期間が必要です。少しずつ実践で発揮していけるように練習していきましょう。

受容とは

無条件の肯定的配慮のところで頻繁にでてくる「受容」という言葉はカウンセリングにおいて非常に重要なキーワードです。

クライアントの中には、カウンセラーとして同意できない発言も数多く出てくることもあるでしょう。

例えばカウンセラーであるあなたが「運動は適度にした方が良い」という考えをもっているのに対し、クライアントは「運動するなんてばかげたことだ」という発言をした場合などです。

受容の意識をもっていないと「一般的な運動が悪影響を及ぼす理由なんてないと思いますが。」などと否定的な発言をしてしまいます。

内容がどうであれ断定的な発言をしてしまうと、クライアントの感情を刺激し、「この人には何も話したくない、わかってもらえない」という印象を与える危険性があります。

発言は抑えられたとしても、表情や身振りに否定的なニュアンスが出てしまうことがあるでしょう。こういった内面的な感情をコントロールし、外面にださないようにするのがカウンセラーの腕前です。

そのための訓練として、普段からあらゆる物事に対して「自分はどのような考えを持っているのか」を明確に把握しておく必要があります。

そして、それに反する意見がでてきた時には余裕を持って客観的に判断できるよう常に意識を持っていましょう。この意識をもつことでカウンセリングの時に限らず、普段の生活でも人間関係をより円滑にすることができます。

カウンセリングにおける人間関係

クライアントと1対1で時間をかけてやり取りをするということは、お互いの人間関係を築いていくということでもあります。

この人間関係を細分化すると、「役割関係」「感情交流」という2つの側面に分かれます。

役割関係

役割関係ではカウンセラー、クライアント、という立場としての関わりを指します。役割関係の中で交わされる会話は主に、カウンセリングの目的に沿った無機質な内容になります。

簡単にいうと、問題解決に向かわない無駄な会話はしないということです。

感情交流

感情交流とは、イチ人間同士としての関わりのことを指します。結婚はしているか、どんな食べ物が好きか、など個人的な趣味や思想に関しての内容の交流をします。

一言でいうと、世間話です。

カウンセリングでは、この2つの人間関係について適切なバランスを取ることが大切です。

カウンセラーとクライアントの「役割・責務・権限」に基づいて、役割関係だけでカウンセリングを行ってしまうと、考え方が正しくてもクライアントは心を閉ざしてしまいます。それは、カウンセリングの目的である問題解決を困難にしてしまうということにもなります。

特に精神分析理論・ロジャーズ理論など古典的な手法でのカウンセリングでは、カウンセラーが自己についての情報を出す事を過度に避ける傾向があります。

「先生は気になる人がいますか?」とクライアントに聞かれたとしましょう。そこで「いる」「いない」とはっきり答えるのではなく「あなたは私に気になる人がいるのか興味があるのですね?」と答えるという対応となります。

感情交流に偏ってしまうと、ただの世間話になってしまったり、カウンセラーが過度に個人的関係に深入りしてしまうこともあります。それは、クライアントに対して恋愛感情を抱くなど、本来のカウンセラーとしての役割を果たせなくなるだけではなく、カウンセラーとクライアントという立場の関係も壊してしまう原因になります。

一言で人間関係といってもこの役割と感情の人間関係はそれぞれ別のものです。アンバランスになりすぎないようにすることが重要です。

確認問題

第2章で学んだことを確認してみましょう。